VARがなかったら、16強は違っていた?
GLではポジティブに作用、反則の抑止にも

泣いたドイツ、恩恵を受けたスペイン

キム・ヨングォンのゴールはオフサイドの判定だったが、ドイツの選手が最後にボールに触っていたことがVARで確認され、ゴールが認められた
キム・ヨングォンのゴールはオフサイドの判定だったが、ドイツの選手が最後にボールに触っていたことがVARで確認され、ゴールが認められた【写真:ロイター/アフロ】

 前回優勝国のドイツも、VARの影響を受けたチームだろう。27日に行われた韓国とのグループリーグ最終戦。メキシコvs.スウェーデンの結果次第とはいえ、勝利を挙げておきたいドイツだったが、先制したのは韓国だった。後半アディショナルタイム、コーナーキックからの二次攻撃で、ゴール前にいたキム・ヨングォンが押し込んだ。


 世界王者ドイツからの先制点に大喜びする韓国だったが、すぐに副審がオフサイドフラッグを上げていたのだ。確かに、キム・ヨングォンがパスを受けたのは、明らかにオフサイドポジションだった。ゴールは取り消しか……と思われたがマーク・ガイガー主審はVAR判定を要求。すると、リプレーにはドイツの選手が最後にボールに触っているところが映し出されていた。


 このゴールはVARがなければ「誤審」となっていた確率が高い。ドイツと韓国の選手が重なり合うセットプレー時のゴール前で、グラウンダーで動くボールを、どちらの選手が最終的に触ったのか――。これを人間の目でとらえるのは、どれほど良いポジションにいたとしても難しい。


 もしもVARがなかったら、先制点が認められずに落胆する韓国を相手に、ドイツが最後の力を振り絞ってゴールをこじ開ける。こんな未来が待っていたかもしれない。ただ、実際にはオフサイドではなかったので、ドイツが不運だったという言い方はできないのだが。


 ドイツとは対照的に、VARの恩恵を受けたのがスペインだ。開幕前に電撃的な監督交代があった影響もあり、グループリーグは低調な出来だった。それでも1位通過を果たしたのはVARによるところが大きい。


 25日に行われたモロッコとの第3戦では1−2で迎えた後半にイアゴ・アスパスが何とか決めて同点に持ち込んだ。このゴールはもともとオフサイドの判定だったが、VARで覆って認められたものだ。また、裏カードとなったイランvs.ポルトガルでは、一度は流されたものの、ポルトガルのDFセドリック・ソアレスがVARでハンドをとられ、PKでイランに1−1に追いつかれて試合終了。その結果、スペインとポルトガルは勝ち点5で並び、総得点で上回ったスペインが1位突破を果たした。


 VARがなかったら、スペインが同点に追いつけず、ポルトガルがそのまま勝ち越していた場合、最終勝ち点はポルトガルが7、スペインは4で2位通過だった。スペインのスポーツ紙は1位突破を報じる紙面に、皮肉も込めて「VARに感謝」(『アス』紙)「VARのおかげでベスト16入り」(『マルカ』紙)という見出しを打っている。

VARのもたらす影響は……

今大会、世界一の称号はフェアな戦いの結果としてもたらされるだろう
今大会、世界一の称号はフェアな戦いの結果としてもたらされるだろう【写真:ロイター/アフロ】

 ポーランドとの試合を控えて、日本代表の吉田麻也はVARについての見解を語っている。


「テレビで試合を見るたびに恐ろしいなと感じている。ボックス内にボールが入る前の勝負。よりゴールから遠ざけることが、失点を防ぐための対策としても、VARを取られないためにも重要になる」


 いまや、ピッチ上で起こっているあらゆる出来事はビデオによって監視されている。オペレーションルームではビデオ副審とアシスタント3人によって、角度の違う映像を切り替え、ズームでチェックする。ピッチ上のレフェリーにとって、VARの存在は心強いだろう。


 ただし、VARの正確性ゆえに、PKになりそうな場面で主審がファウルをとらず、VAR判定を待つ傾向が強くなっている。自分の目で見たものよりも、ビデオで見た方を信用する。いわば、主審とVARの「逆転現象」が起こりつつある。試合結果に影響を与えるようなミスをしたくない――。W杯ゆえのプレッシャーが、審判の慎重な姿勢を助長しているのは間違いない。


 それでも、GLを見る限り、VARはおおむねポジティブに作用していると感じる。PKの場面でファウルをとられなくても、執ように審判に抗議をする場面は少ない。選手に対してもVARの存在は圧倒的な説得材料を持つ。また、反則行為の抑止力としても効果を発揮している。


 W杯において誤審はつきもので、それは大会を彩るスパイスのひとつですらあった。だが、今大会にはディエゴ・マラドーナの“神の手ゴール”は生まれようがない。世界一の称号は、フェアな戦いの結果としてもたらされるだろう。

北健一郎

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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