連載:燕軍戦記2018〜変革〜

ヤクルトが交流戦で見せたチーム力 投打がかみ合い「燕の逆襲」へ

菊田康彦

交流戦勝率1位を決めたヤクルト。セ・リーグでは巨人について2球団目となる 【写真は共同】

「東京ヤクルトスワローズ 最高勝率球団おめでとうございます」

 最後のバッターがレフトフライに倒れてヤクルトが勝利すると、札幌ドームのスコアボードにはビジターチームの栄誉を称えるメッセージが大映しになった。ここまで17試合で12勝5敗、勝率7割0分6厘。もし、雨天中止の振替試合である6月19日の福岡ソフトバンク戦にヤクルトが敗れ、2位のオリックスが20日の阪神戦に勝つと、両チームはまったくの同率で並ぶ。だが、2球団が同率で並び、勝数も同じ場合は直接対決で上回ったチームを上位とする取り決め事項があるため、1試合を残してヤクルトが初のセ・パ交流戦最高勝率球団に確定した。

 表彰規定の変更により、2014年以前のように「優勝」という言葉を使えないのは残念だが、このヤクルトの快進撃を誰が予想しただろう。4年ぶりに復帰した小川淳司監督の下で新たなスタートを切った今シーズンは、交流戦前までは9つの借金を抱えてセ・リーグ最下位。球団史上ワーストの96敗を喫した昨年でも、交流戦開幕時点では借金7つだったから、今年のほうが成績は悪かったことになる。

 しかも、ヤクルトにとって交流戦は長年にわたる“鬼門”。交流戦元年の05年は20勝16敗と勝ち越し、翌06年は22勝14敗で千葉ロッテと優勝争いを演じるなど(当時は36試合制)、最初から苦手にしていたわけではない。ところが、高田繁監督(現横浜DeNA・GM)時代の09年の15勝9敗を最後に(当時は24試合制)、直近では8年連続で負け越し。昨年は交流戦開幕から引き分けを挟んで10連敗を喫するなど、5勝12敗1分けで12球団の最下位に低迷したことが、シーズン96敗の引き金になった。

 それでも、小川監督の指揮で2位に躍進した11年の交流戦は10勝12敗2分け、真中満監督就任1年目でリーグ優勝した15年は8勝9敗1分け。最後に勝ち越していた09年はヤクルトが初めてクライマックスシリーズに出場した年であり、過去10年で見れば交流戦で善戦した年はペナントレースでも好成績を残している。だからこそ交流戦開幕を前に、小川監督も「毎年負けっぱなしだし、大事な位置づけ」と話していた。

防御率は1点以上も改善

 それにしても見事な戦いぶりだった。初戦の千葉ロッテ戦には敗れたものの、その後は交流戦の球団新となる7連勝をマークするなど、5カード連続で勝ち越し。6月15日からの北海道日本ハム3連戦では初めて連敗を喫したが、最後に投打の歯車が見事にかみ合って、セ・リーグでは12、14年の巨人に次いで史上2チーム目の交流戦王者に輝いた。

 投打の歯車がかみ合った──。これは今年の交流戦のヤクルト全般に言えることだ。交流戦前も1試合平均4.20得点と、打線は決して点が取れていなかったわけではない。ところがチーム防御率は両リーグでもワーストの4.54。これではコンスタントに勝ちを重ねるのは難しかった。

「一番はやっぱりバッテリー、ピッチャーの頑張り」

 小川監督がそう振り返ったように、この交流戦ではとにかく投手陣が頑張った。交流戦の1試合平均得点4.35はリーグ戦からほぼ横ばいながら、チーム防御率は3.34と実に1点以上も改善されている。中でも光ったのは、交流戦前は防御率4.81と、なかなか試合をつくることができなかった先発陣の働きだ。

 6月13日の埼玉西武戦から15日の日本ハム戦にかけては外国人先発トリオが3試合連続で4失点以上を喫したものの、これを除けば交流戦で先発が4点以上失ったのは1試合だけ。6月3日の東北楽天戦の小川泰弘から石川雅規、デービッド・ブキャナン、デーブ・ハフと4試合連続のクオリティースタート(QS)を記録するなど、リーグ戦では44試合で17試合しかなかったQSは、交流戦ではここまで半数を超える9試合を数えた。先発陣の防御率は12球団中4位の3.39と、交流戦前とは打って変わって安定した。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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