レッドブル・ホンダは実現するのか? パワーユニットをめぐるF1界の攻防

田口浩次

レッドブルの来季のPUはホンダ製か、それともルノー製か? 【Getty Images】

 ビジネスの世界では、企業の成長を加速させるエンジンをM&Aと呼ばれる企業買収で手に入れることが多々ある。その買収が成功すれば、企業は飛躍的に大きくなることがあるし、失敗すれば成長は見込めない。

 例えば、2006年10月に、まだ成功できるか不明だったYouTubeを16億5000万ドル(当時の為替で約2000億円)で買収したグーグル。12年4月、当時社員13人のインスタグラムを約10億ドル(同約810億円)で買収したフェイスブック。当時は高いと言われたが、いまでは安い買い物だったことは説明するまでもない。そして日本でも、06年3月にソフトバンクが、英ボーダフォンから日本のボーダフォンを1兆7500億円で買収した。当時は、高い買い物だと言われたが、現在のソフトバンクを牽引(けんいん)する“エンジン”であったことは間違いない。

 これらの例で共通しているのは、それぞれの会社は時間を金で買い、さらに新たな市場を手に入れたということ。その一方で、ソフトバンクは12年に米国の携帯キャリアであるスプリントを約201億ドル(同約1兆6000億円)で買収したが、その後の拡大成長を独占禁止法等で阻まれたことから、携帯キャリアビジネス以外に成長戦略を求め、18年4月にスプリントを同業のTモバイルUSへ265億ドル(同約2兆9000億円)で売却した。ハッキリしているのは、ビジネスの未来をシビアに見極め、決断を躊躇(ちゅうちょ)しないという姿勢だ。彼らのビジネスに妥協や、無駄な待ち時間はない。

カナダGPでは見えなかった実力

 さて、こうしたビジネスのM&Aは、F1チームにおけるパワーユニット(PU)選択にもつながるのではないだろうか。というのも、F1ではシャシーを自社制作することがルールで定められているが、PUは現在メルセデス、フェラーリ、ルノー、ホンダの4つの自動車メーカーと契約しなければならない。自動車メーカーとして、チームで参戦しているメルセデス、フェラーリ、ルノーは、PUを自らのチームに搭載することはもちろんだが、他のチームにも供給するサプライヤーの役割も担っている。一方、ホンダは自らのチームがないため、サプライヤーとしてチームに選ばれるPUを準備しなければならない。

 そんなホンダに現在ささやかれているのが、レッドブルとのPU新契約だ。これはレッドブルとルノーがお互いにPU供給に不協和音が生じていることからスタートしている。レッドブルのセカンドチームであるトロロッソに今年からPU供給をスタートしたホンダ。レッドブルとしては、もしホンダ製PUに満足できれば、ルノーからの変更を検討しているというニュースが流れた。しかし、ホンダ製PUの現状や将来性に確信を持つことができず、本来5月の時点で来季のPU選択を終えなければならないとルール上はなっているのだが、それがここまで伸び伸びとなっていた。そこで6月8日〜10日(現地時間)のカナダGPは、レッドブルがホンダ製PUを採用するかどうかの、大きな判断基準になると思われた。

 多くのチームがここカナダGPに新しいPUを投入する場合が多い。つまり、ホンダの新しいPUによって、トロロッソのマシンがライバルチームを上回っていけば、ホンダ製PUの進化は、他より進化スピードが高いことを示す。それだけに、カナダGPは、ホンダ製PUのアップデートに多くの注目が集まった。

 しかし、結論から言えば、ピエール・ガスリーは、フリー走行3回目で新型PUにトラブルが発生。予選は古いPUで挑むことに。チームメートのブレンドン・ハートレーは新型PUによって、予選12番手を獲得。しかし決勝では、ウイリアムズのランス・ストロールに押し出される形でコース外側のガードに接触し、1周目でリタイアとなってしまった。最後尾から追い上げる格好となったガスリーは、サバイバルレースをうまく切り抜け、最終的にはポイント獲得まであと一歩の11位まで追い上げた。しかし、前を行く格下のはずのザウバーを最後まで抜くことができなかったことで、ホンダ製PUの現状のパフォーマンスにクエスチョンマークがついたことは事実だろう。

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