岡田武史が考える、代表監督に必要な資質 「外国人にこだわる必要はない」

飯尾篤史

W杯南アフリカ大会で日本をベスト16に導いた岡田氏に話を聞いた 【Getty Images】

 まもなく開幕するワールドカップ(W杯)ロシア大会に、日本代表は西野朗監督のもと臨む。日本人監督がW杯で日本代表を率いるのは岡田武史氏以来、2人目のことだ。近年、代表監督を外国人が務めてきた現状について、岡田氏は「外国人に任せておいたほうがいい」と思っていたが、最近は「そろそろ日本人監督に任せてもいいんじゃないか」と思い始めたという。

 日本代表は今後どんな人物に託すべきなのだろうか。代表監督を率いる人物に必要な資質とは何なのか。「日本サッカー」が歩むべき道とは――。日本随一の経験値を持つ岡田氏の考えを聞いた。(取材日:2018年5月22日)

「そろそろ日本人監督に任せてもいいんじゃないか」

日本代表を日本人が率いることについて、岡田氏の考えは? 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――いよいよW杯ロシア大会が開幕します。4月に就任した西野朗監督は、2010年の南アフリカ大会の岡田さん以来となる日本人の代表監督となるわけですが、日本代表を日本人が率いることについてどうお考えですか。例えば、ロシア大会後も日本人が指揮を執るべきでしょうか? それとも、まだまだ外国人監督から学ぶべきだと思われますか?

 僕は、日本人、外国人と区切って考えているわけではないんです。外国人監督はたくさん知っているけれど、良い指導者もいれば、そうではない指導者もいる。それは日本人監督も一緒です。それに、いくら能力の高い外国人監督を呼んでも、日本をリスペクトしない限り、絶対にうまくいかない。リスペクトというのは、日本の文化を勉強したり、日本人のメンタリティーを理解しようとするということ。「日本人にサッカーを教えてやる」というような上から目線で来るようだと、成功しないだろうね。

 だから、日本をリスペクトしようとする人なら、外国人監督でもいいけれど、そろそろ日本人監督に任せてもいいんじゃないか、とも思い始めている。今の日本人監督の中には、Jリーグで結果を残した監督もいるわけだから。外国人か、日本人かではなく、少なくとも選考の対象として、同じ土俵に載せるべきだと思う。

――懸念があるとすれば、日本人監督の場合は岡田さんが経験されたように、メディアやファンからのプレッシャーがどうしても強くなることや、日本代表の大半がヨーロッパでプレーするようになった今、監督よりも選手の方が世界を知っていて、マネジメントが難しいことでしょうか?

 経験値という点では、確かにちょっと低いところがあって、W杯やヨーロッパでのプレー経験のある元選手が日本代表を率いる時代はまだ来ていないよね。例えば、ツネ(宮本恒靖)やヒデ(中田英寿)あたりが代表監督をやるようになったら面白いんだけれど。

 ただ、それよりも少し上の世代、森保(一/U−21日本代表監督兼A代表コーチ)や(長谷川)健太(FC東京監督)はJリーグで素晴らしい成績を残しているわけでしょう。誰にでも「初めて」はあるんだから、思い切って任せてもいいんじゃないかな。そうしないと、いつまで経っても、「日本人監督は経験がない」ということになってしまう。僕自身、41歳の時にやったんだから。監督経験もないのに。

日本のことをよく知るペトロヴィッチ監督だが、まだリーグ優勝の経験はない 【写真:築田純/アフロスポーツ】

――例えば、外国人監督の中でも、過去ならイビチャ・オシムさん、今なら北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、日本のことをよく知っていて、日本へのリスペクトもあります。

 そうだね。オシムさんやミシャ(ペトロヴィッチ)はベター。ただ、オシムさん、ミシャがリーグ優勝したかと言ったら、していない。一方で、日本人でリーグ優勝を3回もした監督(森保)や3冠を達成した監督(長谷川)がいる。これは日本の社会でよくあることなんだけれど、外国人コンプレックスというか、崇拝が強いんだよ。同じ日本人が監督だと許せないのに、外国人が監督だと許せたりする。

 例えば、僕が代表監督をやっていたとき、「岡田が監督だったら、日本代表、勝ってほしくない」という人が内外に出てきた。アルゼンチンやブラジルだって監督批判はすごいけれど、自国の代表が勝ったらみんな喜ぶよ。でも、僕が南アで勝ったら、たたいていた人たちは「何だよ、勝っちゃったよ」と言うわけ。僕は「そういうの、やめようよ。俺のことが嫌いでもいいけれど、自国の代表が勝ったら喜ぼうよ」と思っていた。つまり、日本人が日本代表を率いた場合、外国人がやるのとは異なる余計なパワーが必要になる。それが、僕がずっと外国人に任せておいたほうがいいと思っていた理由。

――ここに来て、若くて結果を残す日本人指導者が出てきたから、そろそろ任せてもいいんじゃないか、という気持ちに傾いてきたと。

 それに外国人の適任の監督をそれぞれのタイミングで見つけるのは簡単ではないし、予算的にもヨーロッパのクラブに比べると厳しい条件になる。そうやってベストでない選択をするなら、外国人監督にこだわる必要はないと僕は思う。

「代表」と「日本サッカー」のあり方はイコールではない

日本代表を強化するためのチャレンジを、岡田氏は現在FC今治で行っているという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――南アフリカ大会に向かう過程で岡田さんは、「敏捷性」「パスワーク」「スピード」「献身性」といった日本人の強みを武器にして、代表チームを作っていました。この先も日本代表はそうした強みを最大限に生かすようなチーム作りを目指すべきなのでしょうか?

 これからの「日本代表」のあり方と「日本サッカー」のあり方は、イコールではないと思っている。「日本サッカー」の話をすると、個の力で勝負できる選手を輩出しなきゃいけないけれど、それだけでは、山登りでヨーロッパや南米と同じ道を後ろから追いかけるのと同じで、なかなか追い越せない。

 だから別の道を考えると、やっぱり組織力ということになる。個を育てたうえで、局面で数的優位を作って戦うようなやり方をしないと難しいんじゃないかと。ただし、これはあくまでも日本サッカーの戦略の話です。

――では、日本代表はどう強化していくべきだと。

 僕の時代と違って、今は代表の大半が海外組になったから、インターナショナルAマッチウイークにしか選手を集められない。そういう時代に代表チームで戦術を作って組織力で戦っていくのは大変なこと。世界でもヨーロッパは特に、スペインはバルセロナ中心、ドイツはバイエルン・ミュンヘン中心、オランダはアヤックス出身者が中心というように、同じアイデンティティーを持った選手を4、5人集めることでひとつの型を作っている。それが、これからの日本の代表チームのあり方になると思っています。

 でも、日本の場合はそうしたアイデンティティーがまだないから、どのクラブをベースにするか、どこの出身者たちを母体にするのかが定まらない。しかも、大半がヨーロッパに散らばっているから、パッと集めたところでまとまらない。だから、代表を強化するためにはまず、クラブが「こういうサッカーをするんだよ」というものを作らなきゃいけないと思っていて、そのチャレンジを今、僕はFC今治でやっているんです。

――クラブがチャレンジしていることを、代表チームが共有するようになるには、時間がかかりますね。

 時間はかかる。でも、そういうアイデンティティーを作っていかないと、いつまで経っても変わらないよ。もちろん、オランダもスペインも相手が強ければ守備的に戦ったりするけれど、それでもやっぱりオランダだな、スペインだなというのを感じるでしょう。そういうのは、アイデンティティーからしか生まれないんじゃないかと推測しています。

 ヨーロッパの代表チームは誰が監督をやってもたいして変わらない。なぜかと言うと、例えばオランダでは、アヤックスで育った選手たちが代表に入って、次に彼らがコーチになって、というサイクルを繰り返して100年の歴史がある。日本はJリーグができて25年。まだアイデンティティーがないから、監督が代わるたびにサッカーも変わってしまう。

 だから今、僕は今治でそれを作っているところ。もちろん、それが正しいかどうかは分からない。でも、日本協会でそれをテストして、10年後に失敗だと分かったら、取り返しのつかないことになるからね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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