「あったかいスタジアム」づくりは、知恵と工夫の総力戦【スタジアムMC & チーム運営対談企画・後編】

チーム・協会

写真左から森田淳司さん、白石みゆさん、スッピー 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイでは、今シーズンからホストゲームの運営テーマを「MAKE YOUR “ORANGE”~あったかいスタジアム~」に設定。来場者のみなさんが温かな気持ちで観戦できるよう、会場演出にこだわり、工夫を凝らしながら毎試合運営しています。対談記事の後編では、スタジアムMCの森田淳司さん・白石みゆさんがスピアーズ運営の吉田宗二郎さん・田村玲一さんに抱いている印象や、台本づくりを手がける吉田さんの胸に秘めた思いなどを聞きました(取材日:2025年2月22日)。

神様みたいな吉田さん、センスの塊の田村さん

――MCのお二人にとって、運営の吉田さんと田村さんはどんな存在ですか?

森田:僕は吉田さんや田村さんと、チームとしていつもスクラムを組んでいるような気持ちでいます。今シーズンは修正してチャレンジするタイミングだと思っているので、臆せずにお二人と積極的にコミュニケーションを取り、シーズン後半戦に向けてどんどんブラッシュアップしていきたいです。

白石:吉田さんはラグビーの知識が豊富で、神様みたいな存在です。いつも仏様のようなやさしい表情で、放送ブースでキュー出しをしてくださいます。私は毎試合ビジターチームの注目選手を事前に2人ほど教えてもらっていて、その選手を紹介するときは力強くコールするようにしています。今日だと、キャプテンのクワッガ・スミス選手や奥村翔(かける)選手ですね。

吉田:アナウンスにメリハリがあると、会場も盛り上がりますから。奥村選手は長期の離脱明けで久々にスタメン入りしたので、レヴ二スタ(静岡ブルーレヴズのファンの総称)に喜んでもらえるだろうと思ってピックアップしました。

白石:吉田さんからは、帰化した選手と外国人選手で名前の発音の仕方を変えることも学びました。

吉田:カテゴリAの選手はカタカナの発音、カテゴリCの選手はネイティブの発音を意識してアナウンスしてほしいのです。これは、お客さんが耳障りに感じないための配慮でもあります。

場内放送ブースで奮闘する運営歴20年の吉田さん(写真右) 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

森田:白石さんは毎回別チームの選手紹介をしているので、神経のすり減り方が僕の比ではないですよね……!

白石:田村さんとは運営でのお付き合いは2季目ですが、過去に田村さんの選手引退セレモニーの司会を担当しました。当時と顔つきがずいぶん変わったような気がします。

田村:食のトレーニングから解放されて、現役の頃から20kg痩せたからでしょうか。僕はもともと線が細いので、デフォルトに戻ったという感じです。

白石:話の本筋に戻りますが、田村さんは仕事熱心なうえにセンスの塊だと思っています。私、田村さんがディレクションされた選手入場時の映像の曲が大好きなんです。
田村:入場曲は「原点回帰」をテーマに選びました。トップリーグ初期を現役選手として経験しているアシスタントGM・栗原喬(たかし)さんから提案いただいたこと、そして僕自身も昔の試合を観ていたこともあり、「クボタと言えばこの曲だ!」と思い出したのです。今シーズンのスピアーズにピッタリだと感じ、採用に至りました。

入場PVは、演出クリエイティブチームの協力のもと、フラン・ルディケヘッドコーチ就任後の毎シーズンのスローガンを差し込み「原点回帰」をイメージ。ラストで今シーズンのスローガン「TAKE YOUR SHOT(ガンガン行こうぜ)」にフォーカスし、「新しい歴史を作っていくんだ!」というストーリーの映像を作成してもらっています。

観客をあったかく包み込むスタジアムを目指して

――取材前に、吉田さんが毎回オーダーメイドで作成されている台本を拝見したのですが、その熱量に驚きました。台本づくりで心がけていることを教えていただけますか?
吉田:大きく3つあります。まず1つ目は、ファンが不快に感じる内容は、台本から削除することです。例えば、ビジターファンの声援にかぶせてホストアナウンスを入れることは絶対にしたくない。重視しているのは、ホストファンにもビジターファンにもいやな思いをさせないことで、むしろビジターファンにこそ「あったかいスタジアム」だと感じてほしいのです。

2つ目は、試合中に起こっていることを正確、迅(じん)速、丁寧に場内アナウンスとビジョンで伝えることです。ラグビーはルールが複雑だと言われがちですが、「少しルールを知っている人」が「全くルールを知らない人」にルール名とその要素をサラッと説明できる程度にキーワードをお知らせすることをイメージしながら進行しています。

そして3つ目は、「偉大なるマンネリ」をつくりだすこと。いい意味でのマンネリを目指し、スピアーズ独自の応援スタイルの定着を森田さん、白石さんとともに進めている最中です。日本人は予定調和や勧善懲悪といった、ある種のマンネリを楽しむ文化を持っています。歌舞伎や時代劇、ドリフのコントのような、みんなの「待ってました!」を確立したいです。

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

スピアーズの未来に向けた熱い思い

――最後にみなさんから、一言ずつメッセージをお願いします。

吉田:野球や相撲とは異なり、ラグビーはバスケやサッカー同様「間」の少ないスポーツです。しかし、ラグビーは「間合いがないけど、間合いの楽しめるスポーツ」。その静と動のコントラストこそが、ラグビーの魅力だと考えています。遠回りしながらでも「偉大なるマンネリ」の応援スタイルを築けるよう、汗をかいていきたいと思います。

田村:ラグビーならではのよさや、スピアーズの魅力を演出を通じて伝えることが、僕たちの役割だと実感しています。スピアーズがえどりくで連勝を続けているのも、オレンジアーミーのみなさんの応援のおかげです。これからも、見えないところでチームを支えながら、一緒に「あったかいスタジアム」をつくり上げていけたらうれしいです!

えどりくで行われるスピアーズ公式ファンクラブ「Spears+」限定イベントの「フラッグシンフォニー演出」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

白石:年々スピアーズは団結力も強さも磨きがかかってきていて、自慢のチームだと思っています。ずっと応援し続けたいと思えるのは、選手やスタッフ一人ひとりの人間力、そしてオレンジアーミーの存在が大きいです。どんなときでも前向きなオレンジアーミーのみなさんがそばにいると思うと、本当に心強い! これからもよろしくお願いします。

森田:リーグワンというステージで、スピアーズの礎(いしずえ)を築く一員として、濃密な時間を過ごせていることに喜びを感じています。これからもチームの歯車になり、歴史を積み上げていけたらうれしいです。僕はさまざまなスポーツの現場に携わっていますが、スピアーズほどあったかいチームをほかに知りません。まるで「40度くらいのちょうどいい温度の沼」にハマっているような心地よさ! スピアーズが50年後、100年後もずっと存在し続けてほしいと願っています。

「スタジアムにいる全員が、試合を楽しめる進行を」と白石さん&森田さん 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

取材・文:せきねみき(ライター・コラムニスト)

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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