西岡良仁、全仏OPで流した悔し涙の対価
元世界7位との激闘で得た価値ある大歓声

キャリア最高の時に見舞われた大ケガ

昨年3月の大ケガから復帰した西岡良仁が全仏オープンの1回戦に臨んだ
昨年3月の大ケガから復帰した西岡良仁が全仏オープンの1回戦に臨んだ【Getty Images】

「正直、今一番欲しいのは、ランキングポイントですね」


 今回のテニス全仏オープンが始まる直前、西岡良仁(ミキハウス)ははやる気持ちを抑えようとしながらも、隠せぬ焦燥のにじむ声でそう言った。


 昨年3月――キャリア最高の時を迎えていたそのさなかで、彼は左ひざ前十字靭帯(じんたい)断裂の大ケガに見舞われる。不幸中の幸いと言うべきか、ダメージを負ったのは前十字靭帯のみで、半月板などに損傷はなかった。だが痛みがない分、ひざにメスを入れ靭帯の移植・再建術を受けることへの抵抗は拭い難い。それでも、複数の医師の診断と助言を仰いだ結果、手術が最適の治療法と判断した。


 手術を受けたその翌日、母親が病室を尋ねると、息子はベッドの柵に自分の手を打ち付けている。驚いた母が「何をしているの?」と問うと、息子は「メスを入れたひざが痛い。手を痛めたら、ひざの痛みを紛らわせるかと思って……」と答えたという。苦痛になんとかあらがおうとするその姿に、究極の負けず嫌いである西岡の本質が映し出されていた。

ランキングポイントにこだわる理由

周囲からは「出来過ぎ」なほど順調に回復したが、本人は全盛期とのイメージとの乖離(かいり)にもどかしさを覚えていた
周囲からは「出来過ぎ」なほど順調に回復したが、本人は全盛期とのイメージとの乖離(かいり)にもどかしさを覚えていた【Getty Images】

 ラケットを握れぬ間は、地道なリハビリに励むと同時に、栄養学や生理学を学びケガに強い体作りにも努める。ようやくコートに戻り、実戦さながらの練習ができるようになったのが昨年12月のこと。本人は、全盛期のイメージと体の乖離(かいり)にもどかしさを覚えるが、執刀医をはじめとする周囲にしてみれば「出来過ぎ」なほどに順調な回復だった。


 今季の開幕と同時に公式戦の場に戻った西岡は、復帰の足掛かりとなる、いくつかのうれしい勝利もつかみ取った。だが、上位勢を破る快進撃の日々から1年が経過すると、ランキングポイントは容赦なく消えていく。昨年4月に58位に達した世界での地位は、1年後には380位にまで下降した。


 ランキングという、数字そのものにこだわっているわけではない。だが数字は、自分が戦う舞台のレベルを規定する指標だ。


「上の選手と試合がしたい。ケガする前に自分がいた場所でテニスがやりたい」――。


 それが西岡が、ランキングポイントにこだわる理由のアルファにしてオメガだった。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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