無風で終わったW杯前の「国民的行事」 日本代表23名のリストから感じる不安

宇都宮徹壱

元代表監督のジーコ氏が重視した「コンディション」

ジーコ氏のトークイベントには久保竜彦氏も出席。ジーコ氏は06年大会の選手選考で何を重視したのだろうか 【宇都宮徹壱】

 ここで少し話題を変えてみたい。メンバー発表会見の取材終了後、都内のブラジルレストランで開催された、来日中のジーコ氏のトークイベントをのぞいてみた(06年のドイツ大会での落選が話題となった久保竜彦氏も同席)。たまたま質問する機会があったので、06年大会でのメンバー選考で、選手の実績を重視したのか聞いてみた。ドイツ大会の23名の平均年齢は27.2歳。この時も「将来性があまり感じられない人選」という批判はあった。私の質問に対して、ジーコ氏はこのように答えている。

「メンバー選考で私が重視したのは、年齢や経験ではなくコンディションだ。どんなに経験がある選手でも、コンディションが悪ければ選ぶことはできない。ドイツには5人のFWを連れて行くことを考えていた。ここにいる久保は、残念ながら(けがのため)選べなかったが、足元の技術も高さもあるのでFWの軸と考えていた。では、久保の代わりに誰を選ぶべきか? 私が選んだのは、最もコンディションが良かった巻だった」

 なおジーコ氏は、西野監督に対して、こんなアドバイスを寄せている。いわく「突然の交代で難しい状況だろうが、西野さんがやりたいサッカーを早めにチームに浸透させるべきだ。昨日のガーナ戦ではロングボールを多用していたが、あの形では絶対に日本の良さは生きない。『自分はこれで行く』という方向性を早急に固めたほうがいい」。あれから12年の月日が流れたが、その後の日本代表についても遠くブラジルから気にかけている様子が、言葉の端々から感じられた。

 さて、先日のガーナ戦についてのコラムで、私は《この厳しい現実を踏まえて、われわれは本大会のロシアにどう挑むべきなのか。それは31日の代表メンバー発表を踏まえて、あらためて考察することにしたい。》と結んでいる。
 これまでの経緯を考えるなら、「純粋に日本代表を応援するのが難しい」と考えているファンは決して少なくないはずだ。私の周囲を見渡しても、長年にわたり代表サポーターを自認し、これまで何度もW杯に参戦している人ほど、その傾向は強いように感じられる。

 私自身、「選手とのコミュニケーションや信頼関係」という不明確な理由で、大会2カ月前に監督交代が断行されたことについては、今も納得できずにいる。どこかに忖度(そんたく)したかのようなメンバー選考についても、また然り。正直、これほど応援しづらい日本代表というのは初めてだ。それでも、今回選ばれた23名が「日本を代表して」世界と戦うという事実に変わりはない。ならば、「われわれの代表として」心からの声援を送ろうではないか。そして、目前に迫った4年に一度の祭典に向けて、そろそろ気持ちを切り替えていこうではないか。JFAを批判するのであれば、ロシアでの戦いを見極めてからでも遅くはない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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