西野監督に課せられた「無理筋」のプラン ガーナ戦の敗北で見えたのは厳しい現実

宇都宮徹壱

セットプレーから2失点、ゴールが遠い日本

試合は0−2のままタイムアップ。スタンドからは容赦ないブーイングが飛んだ 【高須力】

 開始5分、日本は左サイドで宇佐美のトリッキーなパスを受けた長友がドリブルからクロスを供給。これを大迫がボレーシュートで狙うも、相手GKにキャッチされてしまう。入り方は悪くない。そう思っていた直後、槙野がファウルを犯してしまい、ペナルティーエリア正面でガーナにFKのチャンスが与えられる。蹴るのはキャプテンのトーマス・パーティー。その右足から放たれたキックは、日本の壁の間を突いてゴール左に吸い込まれていく。ガーナの先制ゴールは、前半8分と記録された。

 その後も日本は、ワントップの大迫にボールを集めたり、後方から宇佐美がミドルを放ったり、たびたび相手ゴールに迫る。しかしガーナ守備陣の寄せが素早く、バイタルでのチャンスをたびたびつぶされてしまう。33分の本田のFKも、GKリチャード・オフォリのファインセーブに阻まれた。前半を0−1で終えると、日本ベンチは3人の選手を一気に替えてきた。宇佐美OUT/香川真司IN、原口OUT/酒井高徳IN、そして大迫OUT/武藤嘉紀IN。前半の内容を見る限り、プランどおりの交代と見ていいだろう。

 3人の中で序盤から気を吐いていたのが香川だった。後半3分、酒井高の右サイドからの折返しを右足で合わせるもGK正面。その1分後には、またしても酒井高のクロスに逆サイドで長友が頭で折り返し、最後は香川が左足で豪快なボレーを放つ(ただし枠外)。もっとも、香川が輝きを放った時間帯はここまで。直後にガーナは、GKからのゴールキックをヘディングでつないで、エマニュエル・ボアテングが一気にゴール前まで加速する。これに対応した長谷部と川島の息が合わず、ペナルティーエリア内で倒してしまいPKを献上。このチャンスをボアテングが冷静に決めて点差を2点に広げる。

 2点を追う日本は、後半14分に本田と山口を下げて、岡崎慎司と柴崎岳を投入。さらに31分には、長谷部がベンチに下がって井手口陽介がピッチに送り込まれる。予想したとおり、ここで日本の陣形は4−2−3−1に変わった。西野監督としては、より攻撃的になることを意図していたようだが、以降の日本の攻撃はロングキックを前線に蹴り込むパターンに終始する。しかし、その多くは相手の高さと強さに弾き返され、味方に到達してもフィニッシュの精度を著しく欠いた。日本のシュートコースは、枠外もしくはGK正面に集中。そのたびに、選手もファンも天を仰ぐ。

 折からの雨と低調なゲームに、さすがに嫌気がさしたのだろう。後半35分を過ぎたあたりから、スタンドを後にする観客が目立つようになる。アディショナルタイムは4分。しかし、西野体制初ゴールは依然として遠く感じられ、そのまま0−2でタイムアップとなった。試合後、スタンドからの容赦ないブーイングにさらされ、うなだれる日本の選手たち。対照的にガーナの選手たちは、キリンチャレンジカップ獲得に喜びを爆発させていた。およそベストとは言い難いメンバー構成であったが、それでも最後まで本気でぶつかってくれた彼らには、心から感謝したい。

「トライ」することで課題は明確になったが

試合後、西野監督の口からは「トライ」という単語が頻繁に聞かれた 【写真:ロイター/アフロ】

 試合後の会見。先に行われたガーナ代表の会見では「メディアの皆さん、(西野)監督には寛大な気持ちで接してほしい。とても良い試合をW杯で見せてくれると思うので」とジェームズ・アッピアー監督に言われてしまい、記者の間から失笑が漏れた。もちろん他意はないのだろうが、今日の敗戦以上にこたえる気遣いであった。その西野監督、テレビのフラッシュインタビューではかなり深刻な表情だったが、会見のときは少し持ち直した様子。そこで何度も口にしていたのは「トライ」という言葉だった。

 いわく「センターからの崩しが、ゴール前でもう少しコンビネーションが取れればなと思いましたけれど、まあトライはしていました」。いわく「選手たちが準備してきた、トライしていきたいことをしっかり捉えていました」。西野監督の会見は、語尾が不明瞭で散漫になる傾向があるので要約すると「さまざまなトライをしたことで、課題が明確になった」ということである。これはこれで、ポジティブな見方であると言えよう。だが、気になる発言もあった。

「(今後)スイス、パラグアイとトレーニングマッチができますが、すべてコロンビア戦に照準を合わせて2試合を捉えていきたい。選手の起用に関しても、システムなのか戦い方なのか。そういう戦略的なところもコロンビアにすべて合わせた中で、チームを持っていく必要があると思います」

 つまり次のスイス戦は「仮想ポーランド」ではなく、あくまでも本大会初戦のコロンビア戦に向けて、チーム作りと戦術の修正をしていく、ということである。この発言から類推すると、今回のガーナ戦もまた「仮想セネガル」より、まずは3バックや4バックなどの戦術的なトライ、そして選手のテストに重きを置いていたと見るべきだろう。結局のところ、「本大会の3試合をどう戦うか」よりも「コロンビア戦までにいかにチームをまとめ上げていくか」が、今の西野監督にとって最重要課題となっているようだ。残された時間が3週間となれば、それも詮無き話ではあるのだが。

 そもそも、壮行試合(5月30日)と最終メンバー発表(31日)、そしてスイス戦(6月8日)とパラグアイ戦(12日)に至る一連のスケジュールは、ハリルホジッチ前監督が指揮を執る前提で組まれたものである。3年かけて積み重ねてきたことを、一気にブラッシュアップするために綿密に練り上げられたプラン。本大会2カ月前に就任した新監督が、このプランで本大会に臨むのは、どう考えても無理筋である。西野監督には気の毒だが、これは「コミュニケーション」や「オールジャパン」で何とかなる話ではないし、「限られた時間を一生懸命努力しました」で勝ち抜けるほどW杯は甘くない。

 何とも身もふたもない話になってしまったが、そうした現実が誰の目から見ても明らかになったのが、今回のガーナ戦であった。この厳しい現実を踏まえて、われわれは本大会のロシアにどう挑むべきなのか。それは31日の代表メンバー発表を踏まえて、あらためて考察することにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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