吉田麻也、4年間の積み重ねで大きく進化 プレミアでの「経験値」を糧にW杯へ挑む

田嶋コウスケ

3バック中央としてプレーの幅を広げる

「プレミアリーグでやることが、一番のステップアップにつながる」と吉田は語る 【写真:Shutterstock/アフロ】

 今シーズンの吉田を語る上で欠かせないのは、3バックシステムの「CB中央」としてプレーしたことだろう。「割と良かったんじゃないかな」と自己評価する吉田は、この位置での仕事について次のように説明する。

「ボールをさばくとか、相手にガツガツいくというのは少ないですけれど、他の選手より集中してゲームの流れを読み、インターセプトしたり、ラインコントロールをしたりしないといけない。頭がすごく疲れるポジションです」

 同じ3バックでも、昨シーズンまでなら「中央」の位置を任されることはなかった。しかし、前任のマウリシオ・ペジェグリーノ監督も、現職のマーク・ヒューズ監督も、リーダーシップと確かな守備力が必要とされる中央の位置で吉田を起用した。日本代表DFは最終ラインの上げ下げをコントロールしながら守備陣をひとつに束ね、指揮官の期待に応えてみせた。

 なかでも、「敵に前を向かせない」(吉田)アグレッシブな守備は光った。

 対峙(たいじ)するCFに縦パスが入れば、吉田は躊躇(ちゅうちょ)することなく前方に飛び出し、相手に前を向かせぬよう事前につぶした。アーセナルのピエール=エメリク・オーバメヤンやチェルシーのアルバロ・モラタ、マンチェスター・Cのラヒーム・スターリング(イングランド代表)といったセンターFWに対し、吉田は「前を向かせない」ことに集中し、激しく当たって大きな仕事をさせなかった。

 さらに、吉田は読みの良さを生かしたインターセプトにも磨きをかけた。

 たとえば、12月16日のプレミアリーグ第18節チェルシー戦。この試合で主将を務めた吉田は、3−4−2−1のCB中央に入った。注目したのは後半のワンシーン。ペナルティーエリア内に走り込んだセスク・ファブレガスに、ティエムエ・バカヨコがダイレクトでスルーパスを送った。吉田はこの動きを事前に察知。パスが入る前に動き出し、コースに入ってボールをカットした。読みの良さがさえた好プレーだった。

 また、5月13日の最終節マンチェスター・C戦でも、デ・ブライネへのインターセプトで光るシーンがあった。GKクラウディオ・ブラーボがスローでMFデ・ブライネにパスを出すと、低い姿勢で待ち構えていた吉田は前方に突進。デ・ブライネの前に入ってボールに奪い、攻撃の芽を摘んだ。

 実は、GKのブラーボはスローの前に一度フェイントを入れていたが、吉田はこれにも対応していた。フェイントだと分かると、腰を落としたままサイドステップで後進。もう一度ブラーボがスローを試みると、吉田は再び前方へ位置取りを押し上げてインターセプトした。集中力を高く保ちながら、「インターセプト」と「前を向かせない守備」の2つを実践してみせたのだ。

 4バックシステムで出場し続けた昨シーズンは、敵の攻撃を跳ね返す「シンプルな守備」を心掛けることで安定感を高めた。そして、3バック中央を任された今シーズンは、「敵に前を向かせない守備」や「インターセプト」を積極的に取り入れて守備の幅を広げた。しかも、これを世界最高峰と謳われるプレミアリーグでこなしたことに大きな意義があると言えよう。

「プレミアリーグでやることが、一番のステップアップにつながる。マンチェスター・Cのような相手と毎回戦えるのは、ほかの選手ではやれないことなので」

 そう言って胸を張る吉田の言葉には、たしかに大きな説得力がある。

成長した点は「経験値が一番」

プレミアで対峙するアタッカーの情報も、ピッチ上での戦いを通じて蓄積してきた 【Getty Images】

 対峙するアタッカーの情報も、ピッチ上での戦いを通じて蓄積してきた。190センチ、93キロの恵まれた体を持ちながら、水準以上のスピードも有するベルギー代表FWのロメル・ルカク(マンチェスター・U)については、「(ボールが入るタイミングで)一歩前に入れるかが、すごく大事。一瞬の予測と最初の飛び出しが非常に大事になってくる」と指摘。

 爆発的なスピードを誇るイングランド代表FWのジェイミー・バーディー(レスター)についても、「スピードが怖い。怖いから先に動くしかないですよね。いかにいいポジションをとって、いい動き出しをするか」と、対応策は頭の中にたたき込んである。

 さらに、ドイツ代表MFのメスト・エジルに関しても「ボールの持ち方が非常に嫌らしくて、取れそうで取れないところにボールを置いてくる。しかも、自分がコントロールできるところで保持している。取れそうに見えて実際は取れない。バイタルエリア周辺をウロウロされると嫌です」と分析する。

 どこに守備のポイントがあるか、どうすれば抑えられるのか。プレミアリーグの戦いを通して、具体的に守備の画(え)を描けるようになった。こうした経験値も、W杯を戦う上で大きな武器になるのは間違いない。

 冒頭で「吉田は大きな進化を遂げた」と記したが、ある日突然、急成長したわけではない。サウサンプトンの厳しいレギュラー争いに身を置き、イングランドで生き残ろうと努力を重ねた。また、ピッチに入れば、世界有数のアタッカーたちと死闘を繰り返した。彼らとのマッチアップを通じ、守備のポイントや抑えるイメージも膨らませた。

 こうした戦いの日々と努力の積み重ねによって、今の吉田がある。「ブラジルW杯時に比べて、どこが一番成長した?」。そんな質問をぶつけてみると、吉田は次のように答えた。

「全体ですね。ひとつ挙げるのは難しいけど、やっぱり経験値が一番だと思います。体も頭もいろいろ全部、高まったと思います」

 プレミアリーグで、一回りも二回りも成長した吉田。プレミアリーグでできたのなら、W杯でも存在感を示せるはず。きっと、そんな思いを密かに抱いていることだろう。決戦の地ロシアでも持てる力を総動員し、守備の要人として日本代表をけん引する。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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