シーズン終盤に見えた吉田麻也の「変化」 武器を身に付け、アジアを代表するCBに

田嶋コウスケ

アジアレベルで注目を集める日本代表DF

吉田はプレミアリーグに完璧なまでに順応。プレーでもリーダーシップでもチームをけん引した 【Getty Images】

「マヤ・ヨシダにインタビューしたいんだけど、どうすればいいか教えてくれないか?」

 韓国人記者にそう尋ねられたのは、4月22日(以下、現地時間)に行われたFA杯準決勝・チェルシーvs.トッテナム戦でのことだった。簡単に手順を教えると、彼は「ヨシダはサウサンプトンでセンターバック(CB)のレギュラーになったけれど、キャプテンを務める試合もあるんでしょ? 日本代表でも主将を務めているらしいね」と、吉田麻也について語り始めた。そして、こう続けた。

「プレミアリーグのクラブでレギュラーCBに抜てきされたアジア人は、ヨシダが初めてじゃないか?」

 彼の指摘は、確かに正しい。過去に元中国代表DFのスン・チーハイ(マンチェスター・シティなどに在籍)や元韓国代表DFのイ・ヨンピョ(トッテナムに在籍)がプレミアリーグで活躍したが、いずれもサイドバックの選手。今シーズン後半戦からとはいえ、アジア人CBがプレミアリーグのピッチに立ち続けるのは吉田が初めてのことだ。それゆえ、アジアレベルで日本代表DFは注目を集めるようになった。

 周囲のまなざしに応えるように、吉田も好プレーを見せた。「試合に出続けているのは大きい」と本人が語るように、試合を重ねるに連れてパフォーマンスは向上し、4月にはサウサンプトンの月間MVPを受賞。5月7日のリバプール戦(0−0)と17日のマンチェスター・ユナイテッド戦(0−0)でも、確かな守備でクリーンシートに大きく貢献した。12年のサウサンプトン加入時から吉田の取材を続けている筆者の目にも、4〜5月のパフォーマンスは加入以来、「ベスト」と呼べる出来だった。

 そして、何よりも強く感じるのは、最近の吉田のプレーから揺るぎない自信が伝わってくることである。冷静沈着な守備で敵の攻撃を止め、1対1の場面でも力強いブロックで封じる。味方には英語で指示を出し、首を傾けたくなる判定があれば主審に抗議する。プレミアリーグに完璧なまでに順応し、プレーでもリーダーシップでもチームをけん引した。

レベルアップするために行った「トライ」

「跳ね返す守備」をベースにしながら、自らのストロングポイントをプレーの中に織り交ぜるようになった 【Getty Images】

 シーズン終盤、そんな吉田を見ていて、気が付いたことがあった。

 レギュラーに昇格した直後の1〜2月は、「シンプルにプレーすることを心掛けた」と常々口にしていた。プレミアリーグにおけるCBの最重要タスクは、来たボールをシンプルに跳ね返すこと。もちろん、それは世界中のすべてのDFにとって大事な仕事になるが、ロングボールやフィジカルバトルが格段に多いイングランドでは、こうしたベーシックな守備がCBに強く求められる。足元の技術を生かした”つなげるCB”をアピールポイントにする吉田も、まずはプレーの優先順位を「跳ね返す」ことに合わせ、守備の安定に寄与していた。

 しかしシーズン終盤に入り、吉田に変化が見えた。ビルドアップの意識を高め、スピードに乗った縦パスを入れる。ドリブルで前方に持ち上がるシーンも増えた。「跳ね返す守備」をベースとしながらも、吉田のストロングポイントをプレーの中に織り交ぜるようになったのだ。

「試合に常時出るようになったことで、トライしている部分もあるのではないか?」。そう尋ねてみると、吉田は「そうですね」と答えて次のように続けた。

「試合に出続けているので、ある程度のパフォーマンスは出せるようになってきた。上位のチームと対戦するときに思いますが、やっぱり自分の武器を持てるようにならないといけない。自分がもうひとつ、レベルアップするために必要なことだと思っているので、ちょっと(ビルドアップのところで)トライしてみようかなと思っています。

(チームメートでオランダ代表DFのフィルジル)ファン・ダイクとかもそうですけれど、いい選手は、やっぱりディフェンスができた上で自分の武器がある。そういう選手が評価されてきている。もちろん、イギリスでは『はじくこと、止めること』が評価されるとは思いますが、それはみんなできていること。そこから自分が突出するためには、武器がもう少し必要かなと。だから、ボールを持っている時のアイデアの質を上げたいと思っています」

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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