カーリング、フロントエンドにも注目を 職人技が光るLS北見、軽井沢クの選手たち

竹田聡一郎

スイープで上回ったLS北見

 女子のフロントエンドはLS北見が吉田夕と鈴木夕湖、富士急が小谷有理沙と石垣真央だ。

 今大会、公式のショット率は出ていないが、おそらく両チームを比較してもそこまで数字の開きはないだろう。では、どこで差がついたかと言えばスイープだ。

かねてよりスイープの重要性を訴えてきた鈴木(中央)。吉田夕(左)とともにフロントエンドとしてLS北見の躍進を支えてきた 【写真は共同】

 富士急のスキップ・小穴桃里は「向こうの方がしっかりスイープを使って投げていた。ラインコールの精度が足りなくてこういう結果になってしまった」と大会後に語った。正確なウエイトジャッジやその判断スピードは、やはりLS北見に一日の長があった。

 鈴木はかねてから「もちろんショットも大切だけれど、私たちには他の仕事もある」とスイープの重要性を強調してきた。

 今大会も「スイープがなければ好ショットにならなかった。ありがとう」と吉田知や藤澤は何度か口にした。特にサードの吉田知那美は「うちのフロントは世界一。彼女たちへのコメントならいくらでも取材協力するからたくさん書いてください」と報道陣にお願いするくらいだ。

 また、吉田夕はスイープやセットアップ以外にも荒れ石担当という特命を持つ。カーリングストーンは天然の花こう岩を原材料としているため、どうしても石ごとに個別のクセがある。挙動の予測がつきにくい“荒れ石”を得点に直結するスキップに残すわけにはいかないので、どうしてもフロントエンド、リードとセカンドで処理しなければならない。LS北見の場合、吉田夕がその職人だ。初見のアイスでクセを持つ石を苦にせず、淡々とガードストーンとして有効活用する。今大会、LS北見は“大感謝祭”をテーマにプレーしたが、スキップの藤澤五月は「いつも私にいい石を残してくれるユリに」とあらためて感謝を伝えた。

フロントエンドの活躍にさらなる注目を

 彼らフロントエンドの一連のプレーはスキップのフィニッシュに比べたらやはり地味で、スポーツニュースや新聞記事でフォーカスされることはほとんどない。「決めて当たり前」「できて当然」と見られがちだ。

 しかし、今大会でSC軽井沢クラブのセカンド・山口剛史が決めたほぼ完璧なカムアラウンドは相手が最後まで弾き出せなかった強い石となり、複数点の契機を作った。

 海外メディアが驚きと敬意を込めて“クレイジースイーパーズ”と呼ぶ身長152センチと145センチの吉田夕と鈴木のトルク(回転数)に長けたスイープは、幾度も相手のチャンスの芽を摘んだ。

 彼らのパフォーマンスなしで、両五輪チームは世界と互角に戦えなかったのは明らかだ。

カーリングのさらなる認知普及へ。フロントエンドの果たす役割への理解がひとつの鍵となる 【写真は共同】

 日本のカーリングは今、過渡期、あるいは分岐を迎えている。4年に一度のブーム的なスポーツとして扱われるのか、精緻で奥深い氷上のチェスとして認知普及が進むのか。

 安定したショット、的確なコール、力強いスイープ、相手の攻撃をいなすウィック、求められる当たり前をこなすフロントエンドの活躍がファンや視聴者に理解されれば、おのずと日本のカーリングは後者の道を進み始めるのではないか。

 ぜひ来季はフロントエンドの献身に注目し、彼らのナイススイープ後には惜しみない拍手を送ってあげてほしい。

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