LS北見の銅メダルは金に匹敵する価値 敦賀信人氏がカーリング女子を解説
3位決定戦で英国に競り勝ち、史上初の銅メダルに輝いたLS北見 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
5勝4敗の4位で初めて予選を通過した日本は、準決勝で地元・韓国と対戦。終盤までリードされる苦しい展開となったが、土壇場の第10エンドで同点に追いつき延長戦へ持ち込む。しかし延長戦で韓国に1点を奪われて7−8で惜敗し、3位決定戦へと回った。迎えた英国との3位決定戦では、終盤まで1点を追いかける我慢の展開が続いたが、日本は最後まで大きく崩れない安定したショットを連発。英国にプレッシャーをかけると、最後は英国のミスショットで連続スチールに成功し、日本カーリング史上初のメダル獲得を決めた。
今大会の日本女子代表の戦いについて、1998年長野五輪でスキップを務め、今回はカーリング男子の放送解説を務めた敦賀信人さんに話を聞いた。
第9エンドでセオリーが変わった英国戦
英国戦では、9エンド目にセオリーが変わったと敦賀氏は分析 【写真:ロイター/アフロ】
素直にうれしいですし、日本のカーリング界の新たな1ページを開いてくれたなと思います。
――試合後の選手たちの笑顔と涙は素晴らしかったですね。
昨日の準決勝、今日の3位決定戦と、試合前からいい緊張感で試合に入っていたと思います。銅メダルを取った時は、信じられない気持ちとうれしい気持ちが入り交じったような表情をしていました。
――英国戦は、我慢比べのような試合展開になりました。
お互いになかなか複数点を取れない展開でした。日本は(複数点を)取れるチャンスが第4エンドと第8エンドにあったのですが、モノにできませんでした。第4エンドは狭いところでしたがチャンスがありましたし、第8エンドは2つロールインのチャンスがあったのですがモノにできず、流れが向こうにいきそうな苦しい展開でした。
最終エンドでは相手に逆転の可能性もありましたが、最後に投げさせることができたのと、難しいショットだったのでプレッシャーを掛けることができたのが大きかったと思います。
――プレッシャーをかけることができた要因は?
(藤沢の)最終ショットの前に英国がナンバー1を持っていたので、最後置きにいくショットで英国が2点目を取ったらそれでおしまいでした。しかしその置きにいくショットのコースを狭くすることができました。延長戦にいくと(後攻の)日本がラストストーンを持っているので、英国は逆転を狙ってきたショットでしたが、簡単ではなかったです。藤沢(五月)選手の(最終)ショットはもう少し中心に持っていきたかったですが、最後、真ん中付近は氷の状態も一番変化していますし、そこに投げさせることができたというのがよかったのだと思います。
――序盤はハウスの中にストーンが少ない状況が続いていましたが、これは狙い通りの展開だったのでしょうか?
やはりお互いに慎重に試合に入っていたと思います。攻めたいけれど大事な3位決定戦ということもあり、絶対に勝ちたいというプレッシャーというか、いつもの試合や予選でしたらリスクを背負っても攻められるのですが、あえて無理せずにチャンスを待とうというお互いの意図が見えました。
ミスはそれほどお互いになかったのですが、ストーンがたまる展開ではなかったので、ガードストーンの後ろに回り込んだチームにチャンスがあったと思います。その中で、お互いにガードの後ろをなかなか取れなかったですし、取っても前のガードで飛ばすことがお互いにできていました。
唯一、日本がチャンスとなったのは9エンド目だったと思います。日本がガードストーンの裏を取り、英国は(最終投で)ガードストーンで日本のストーンを飛ばすことができませんでした。あそこで英国が日本のストーンを飛ばすことができていれば、同点のまま日本は10エンドで不利な先攻となり苦しかったと思います。ここは試合のセオリーが変わった瞬間でした。
あとは、その一つ前のショットで(スキップの)イブ・ミュアヘッド選手がそれまでは決めることができていたランバック(手前にあるストーンをヒットして奥に持っていき、ハウス内のストーンに当てるショット)が少しずれました。彼女自身もこれだけの大会で試合をこなしてきているのに、プレッシャーを感じていたということだと思います。
LS北見らしい「笑顔」がもたらした影響
そこまでは鈴木選手もいい調子でできていましたが、プレーオフに残ったという意味で、いつも緊張しなかったのがメダルもかかってきて若干違う緊張感が生まれたのだと思います。韓国戦に関しては鈴木選手が一番悔しかったと思います。彼女の復調は英国戦には必ず必要でしたし、実際に非常にいい仕事を見せていました。前の2人でしっかりと形を作って吉田知那美選手につなぐことができたのが、最後まで我慢強く戦うことができた要因だと思いますし、結果的に勝利につながったと思います。
――韓国戦での敗戦があったからこそ、3位決定戦での勝利があったということでしょうか?
そうですね。韓国戦の出だしで3点を取られ、その3点が最後まで重くのしかかっていました。しかし日本は最後(調子が)上ってきていましたし、韓国に対して精神的にも追い込んで、最終的には日本の戦い方をしていました。最後、相手に完璧なショットを決められて負けましたが、自分たちでミスをして負けたわけではなく、やるべきことをやって負けたというのは英国戦につながっていたと思います。
――韓国戦の第1エンドに3失点が生まれてしまった要因は何だったのでしょうか?
第1エンドの日本は調子も悪かったですし、その中で韓国がリスクを背負いながらしっかり決めてきた結果だと思います。日本も先攻ながらストーンをハウスに入れていき、初めからプレッシャーをかけていました。日本も悪くなかったのですが、相手のストーンがいいところにことごとく残っていました。相手のストーンを出すのは簡単ですが、残り方が韓国にとってよくなり、流れが韓国にいっていたと思います。
――韓国戦後には「もう少しできるかなと思う」という選手たちのコメントもありました。五輪で勝つ難しさを感じた試合だったと思いますが、どういった部分を十分に出し切ることができなかったのでしょうか?
コンシードではなかったですし、本当に少しの差だったと思います。どこかのエンドで流れが変わっていれば結果も変わったかもしれませんし、後半にあれだけの集中力と強さを見せることができたということは、それだけの力が日本にはあったということです。
選手の調子が良い、悪いはあると思いますが、いかにそのエンドでミスした選手をカバーすることができるかが重要です。ミスをした選手を我慢強くカバーすることで後半に調子が上がっていきますし、逆に調子が出ない中でリスクを背負って無理に攻めて、どんどん調子を落としていくということもあると思います。そういう意味でのショットの選択という点では、藤沢選手は一番分かっていると思います。
――LS北見らしい笑顔のプレーが、韓国戦終盤での復調につながったということですか?
それが彼女たちのいい部分だと思います。調子の良いショットが決まったときに笑顔を見せるのと、調子が悪いショットのときに場を和らげる笑顔。世界で戦っていても、「なんでそんなにミスしているのに笑顔でいるの?」って思うチームもあったと思います。でもそれをやることで彼女たちのペースで試合ができますから、笑顔が彼女たちのバロメーターになっていると思います。本当に笑顔が見えるときは思い切ってやれていると思いますし、頭の切り替えや表情の切り替えのバランスに長けていると思います。普段の練習以外の場所でもコミュニケーションが取れている結果だと思います。