ロッテのスピードスター荻野が語る進化「これまでより楽しく野球ができている」

週刊ベースボールONLINE

井口監督が掲げる走塁改革

これまではケガに悩まされた荻野だが、フルシーズン完走に向け好スタートを切った 【写真:BBM】

 今シーズンから就任した井口資仁監督の掲げる走塁改革。足を絡めて得点機を広げ、しぶとく1点をもぎ取っていく。そんな“井口野球”が、少しずつ、だが確実に形になってきている。走塁に対しては常に高い意識を持ってきた荻野も、チーム全体に走塁への意識、一つでも先の塁を狙う姿勢が浸透しつつあることを実感しているようだ。

 井口さんが監督になられて、「スキがあれば常に次の塁を狙う」というのはチームとしてキャンプからずっとやってきたことでした。僕や(中村)奨吾は以前からそういった意識を持っていましたが、これまで盗塁などをあまり試みたことのなかった選手たちが今年はチャレンジするようになってきています。チームとしての大きな変化ですね。

 もちろん盗塁だけではありません。井口さんがよく言うのは「二塁打を三塁打にできればいい」ということ。どの選手も、今まで二塁で止まっていたところでもチャンスがあれば積極的にチャレンジしている。例えアウトになったとしても、必ずそこから学ぶことがあると思います。実際、今年はチームとして三塁打が多いですよね(31試合で11本、昨季は143試合で29本)。井口さんが口にしてきたことが、結果に表れていると思います。実際、僕自身もこれまで以上に「もう一つ先へ」という意識が強くなっています。

 ただ個人的には出塁率という部分でもっと上を目指していかなければなりません。何よりもまず、塁に出なければ始まりませんから。フォアボールを狙える場面でもボール球に手を出して凡打になることが多いと感じています。追い込まれるまでは甘いボールを積極的に振っていく。追い込まれてからは相手に1球でも多く投げさせるように粘る。それはチーム全体の目指すところでもあるので、もっと徹底していきたいと思います。

 実際に走塁に対しての相手からの警戒も強くなってきました。僕は以前からですが、(鈴木)大地とか、これまであまり盗塁をしていなかった選手たちにもけん制が増えていると感じます。これまで以上にランナーを意識しているということは相手にとってプレッシャーになっているということでもあると思います。間違いなく、チーム全体としてはいい方向に行っていますね。

「全試合出場が一番の目標」

軸回転を使ったコンパクトな打撃はますます鋭さを増している 【写真:BBM】

 ルーキーイヤーの2010年。荻野は開幕からケガで離脱するまでの46試合の間に25個という驚異的なペースで盗塁を重ねた。一方で、5月10日時点で通算の盗塁成功率(150盗塁以上)は歴代最高の8割7分6厘を誇る。まさに盗塁のスペシャリストだが、今シーズンは井口監督が求める積極性と、「盗塁は全部成功したい」という自らの欲求のバランスを取りながら、さらなる進化を誓っている。

 シーズンが始まる前に、井口さんからは「どんどん行ってくれていいから」ということを言われました。もともと盗塁に関しては「失敗することが一番イヤ」なんです。盗塁の失敗はチームのいい流れを一瞬で悪いほうへ変えてしまうこともある。だから絶対に失敗はしたくない。井口さんには「失敗を恐れないでいいから」とも言われました。これまでも失敗を恐れているわけではなかったのですが、「失敗しない」ということを前提にしながら、さらにどんどんチャレンジしていければと思っています。

 ただ、先ほどもお話ししたように今季は出塁率が上がらないために企図数自体が少ない。走れる場面ではしっかり走れていると思うのですが、走れる場面をもっと増やしていかなければなりません。その上で、「失敗したくない」という気持ちは持ったまま、消極的になることなく、行けるとき、行けるタイミング、行けるピッチャーといった状況判断をしっかりして、勇気を持って決められるようにしたいですね。

 僕自身も盗塁に対する意識がさらに高くなっていることは確かです。特にダブルスチールも含めた三盗に対してです。三盗についても判断は託してもらっているのですが、昨年までは二塁走者になっても「バッターに任せておけばいい」という意識がありました。今は狙えるときは狙おうと思っています。「一つでも先の塁へ」ですね。

 井口さんから直接言われたわけではありませんが、「50盗塁&盗塁王を目指せ」とおっしゃっていたということは聞いています。そう期待してもらえるのはありがたいですが、僕はまだこれまでに年間30盗塁もしたことがないですから(笑)。まずは30盗塁くらいを目指しながら。何よりも全試合に出場するということが一番の目標なので、今はまだ盗塁について具体的な数字を設定しているわけではありません。ケガなくしっかりとやっていくことができれば、数字は後から付いてくると思っています。

 これまであまり「楽しく野球をした」という覚えがありません。もちろんケガに苦しんで、リハビリが多かったということもあります。それが今年はここまで、これまでよりは楽しく野球ができているのかなと思います。フィジカルの不安が少ないということ以上に、チームの雰囲気がそう感じさせてくれているのかもしれません。この雰囲気に乗って、最後はみんなで井口さんを胴上げすることができればと思います。

(取材・構成=杉浦多夢 写真=中島奈津子、桜井ひとし)

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