トロロッソ・ホンダの前に大きな壁 課題として見えたエネルギーマネジメント

F1速報

「まったく戦えなかった」とガスリー

アゼルバイジャンGPの市街地コースを走るピエール・ガスリー 【Sutton Images】

 1周目に出たセーフティカーからのリスタートで一時はニコ・ヒュルケンベルグまで抜いて7番手に浮上したガスリーだったが、そこからルノー、ウイリアムズ、ザウバー、フォース・インディア、マクラーレンに次々と抜かれてあっという間に13番手まで後退してしまったのだ。

「かなり車速差が大きくて、DRSゾーンにさえ入らないうちに抜かれてしまった。まったく戦えなかった。今週末はずっと最終セクターの速さに苦しんできたけど、レースではさらに厳しかったんだ」(ガスリー)

 スリップストリームの影響がない単独走行時には、STR13はDRSが閉じた状態で307キロ、DRSが開いた状態では323キロ前後でパワーとドラッグが釣り合った状態になっていた。これはフェラーリやウイリアムズとほぼ同じか、やや速いくらいの数値だ。

 しかし、レースでは前走車の1秒以内にいなければDRSを使うことはできないし、スリップストリームの効果を受けることもできない。スリップに入れば車速は優に10キロは伸びる。ダニエル・リカルドが344.4キロという驚異的な最高速を記録しているのはそのためだ。

 しかしDRSが使えなければ最高速が伸びず、ブレーキング時の制動力も小さくなる。するとMGU−K(運動エネルギー回生システム)の発電量は減ってしまう。事前に“チャージラップ”でバッテリーをフル充電しておいてアタックラップに4MJ(1周あたりに使用できる最大エネルギー量)を使える予選アタックとは異なり、決勝では毎周充電できる2MJとMGU−H(熱エネルギー回生システム)からの発電量だけで賄わなければならない。だがMGU−Hは低速からの立ち上がりで発電に使えばターボの過給が下がってしまうため、常にフル発電できるわけではない。

 ドライバーとしては、ラップタイムを速くするよりもバトルで抜いたり抜かれたりしそうになる場面でデプロイメント(蓄積したエネルギーを活用すること)が欲しくなりオーバーテイクボタンを押す。発電量が充分でないところに想定外のバッテリー消費が加われば、どこでどれだけ発電しどこでどれだけ放電するかというエネルギーマネジメントは狂ってしまう。

 全長が6キロと長く、しかも2キロという長いストレートを抱えるバクーだからこその難しさだ。

 2年前の初開催時にはメルセデスAMGでさえエネルギーマネジメントのプリセットである“ストラット”の一部に計算ミスがあり、デプロイメント切れが頻発する問題に悩まされたルイス・ハミルトンが勝利を失った。今年もレッドブルはリスタート直後に同じような問題に悩まされ、本来のペースでは大きな差があったはずのルノー勢に次々とパスされてしまった。

深刻な雰囲気に包まれたレース後

 そして、ホンダもその罠にはまっていた。

「レース序盤にはウイリアムズやペレスに抜かれたけど、ターン20ではもう横に並ばれて、ストレートエンドまでにはもう抜かれてしまっていた。エネルギーマネジメントをもっとうまくやることができなかったか、どうすればうまくやれたのか、それも見直さなければならないだろう。エネルギーマネジメントに関しては開幕戦からそれほど苦しんではいなかったけど、今週末はこれまでよりも(ライバルとの)差が大きくなってしまった」(ガスリー)

 ハートレーに至ってはGPSトラブル、つまりマシン自身がどこを走っているのか誤認して充電・発電する場所を間違えていると疑ったほどだった。F1初入賞を果たしたにもかかわらず彼の表情が曇ったままだったことが、いかに苦しいレースを強いられたかを物語っていた。ケビン・マグヌッセンの危険な幅寄せによって8位入賞のチャンスを失ったガスリーも、その怒りと同時にペース不足への落胆がはっきりと見て取れた。

「レースの展開での中でのエネルギーマネジメントをもう一度見直さなければなりません。レースの展開すべてに対してエネルギーマネジメントを最適化できていなかったということです。それは大きな反省点です」(田辺テクニカルディレクター)

 レース後、ホンダは深刻な雰囲気に包まれていた。開幕戦のMGU−Hトラブルを除けば、パフォーマンス面ではここまで順調に来ていたホンダが今季初めて壁にぶち当たった。その重さがヒシヒシと感じられたアゼルバイジャンの決勝後だった。

(テキスト: Mineoki Yoneya)

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