ハリルホジッチ前監督・独占インタビュー  「JFAは真実を公表してほしい」

日本サッカーは他国のコピーであってはならない

田嶋会長は解任について「1パーセントでも2パーセントでも、日本代表が勝つ可能性を追った」と発言 【写真:ロイター/アフロ】

――田嶋会長によると、日本代表は縦に速いサッカーよりもパス重視のサッカーが日本のスタイルに合っているとのことだが、どう思うか?

 持論を展開するのは自由だが、プレースタイルや戦術に関していえば、彼は門外漢のはずだ。彼の仕事はそこには存在しない。私は資料を作成して、日本のサッカーは選手の個人的かつ集団的な価値に基づいて、アイデンティティーを形成すべきだと説明してきた。他国のコピーであってはならない。自身のプレースタイルを磨く必要があるのだ。

 プレースタイルは選手の性質に依存する。日本人は背が低いが敏捷(びんしょう)性に長けているので、速くて爆発的なプレーが可能だ。100本のパスはゴールまでのプレーを遅らせるだけだ。相手ゴールを危険にさらすためには、速い動き出しこそ必要なのだ。私は17年間、センターFWとしてプレーした。ゴールを奪うための最良の方法を心得ているつもりだ。

――田嶋会長は「1パーセントでも2パーセントでも、日本代表が勝つ可能性を追った」と会見で話していたが、どう思うか?

 新監督は、私よりも何度かW杯を経験していて、選手時代もたいそう偉大な選手だったに違いない。だから、本大会でもきっとうまくいくのではないか。

――本大会で招集を予定していた23名の選手の名前を教えてほしい。サプライズで誰かを呼ぶ予定はあったのか?

 今ここで話すのは意味がない。自分の考えとしては、23名のベストな選手を呼ぶだけだった。

――選手たちとの関係は良好で、コミュニケーションもうまく取れていたと話していたが、一方で会見では本大会出場を決めたオーストラリア戦後に2人の選手が不満を持っていたことを明らかにした。その選手はそれまでの試合に出場していたという。それは本田圭佑と香川真司のことか?

 名前は重要ではないし、言うつもりはない。サッカーは集団スポーツだ。重要なのはチーム、プレー、パフォーマンス、結果だ。名前は重要ではない。チーム全体は選手個々よりも重要視されるべきである。オーストラリア戦での(選手起用に関する)私の決断は、日本では大きな衝撃だったようだ。日本代表の試合出場数が多い選手たちを使わなかったからだ。

 私はその時の最高のチームを選び、結果的に日本はオーストラリアに歴史的な初勝利を飾った。勝てると信じた人間は少なかったが、私は信じていた。サッカーの世界ではよくあることだ。どの監督も、たとえばジョゼ・モウリーニョ(現マンチェスター・ユナイテッド監督)でさえも、選手から不平を唱えられ、サポーターやメディアからはこの選手を使えと批判される境遇に置かれているのだ。

代表チーム、クラブからのオファーは留保している

代表チーム、クラブからのオファーもあったというハリルホジッチ氏。今はすべて留保しているそうだ 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

――日本ではあなたの解任に不満を持つ者も多いという。解任の真の理由が日本代表戦のテレビの低視聴率の打開策だったり、スポンサーの圧力があったりといった憶測があるが、どう思うか?

 政治とサッカーの世界では何でも起こり得る。残念なことに金はスポーツよりも重要なものになった。そういう時代なのだ。これだけは絶対に言えることだが、日本代表選手たちとの連携に問題はなかった。むしろ素晴らしいコミュニケーションを確立していた。私たちの関係は理想そのものだった。

――すでに監督就任のオファーが届いているというニュースを耳にしたが、今後の予定について教えてほしい。Jリーグのクラブからオファーがあれば引き受けるか?

 代表チーム、クラブからオファーが届いていることは確かだ。しかし、今はすべて留保している。

――仮にヨーロッパのクラブを率いることになったら、自身のクラブでプレーをさせたい日本人選手はいるか?

 自分のクラブでプレーする選手が白人なのか、黒人なのか、国籍はどこなのかなど一切気にしたことがない。私は偏見を持たない。大切なのは良い選手であり、チームプレーに徹することができる選手だ。

――そういう一般的な話ではなく、あなたが自分のクラブに呼びたい具体的な日本人選手名を挙げてほしい。

 それはクラブ次第だ。例えばマンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンのようなビッグクラブの場合、そこでプレーできるだけのレベルに達した日本人選手は現時点ではいないだろう。一方で、小さなクラブを率いることになったら、日本人選手の獲得もあり得るだろう。

私を支えてくれたすべての人に、心よりの感謝を

日本のサッカーファン、日本代表サポーターに対しては「私を支えてくれたすべての人に、心より感謝の言葉を送りたい」と語った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――JFAとの契約はW杯終了までだった。解任の知らせを聞いて、ひどく落胆していたが、その後、訴訟の準備をしているとの話も聞いた。違約金や慰謝料のオファーはあったのか。また訴訟をしたのか?

 現在は弁護士にすべてを任せている。訴訟はしていない。このテーマに関しては、これ以上、話すことができない。弁護士に任せている。

――来日後、JFAとの話し合いの場は設けられたのか?

 何もない。JFAから話し合いの提案はあったが、断った。

――なぜ断ったのか?

 なぜなら、私がどういう理由で解任されたのか、真実を知りたいからだ。互いに向き合った会話の中での説明はいらない。私はJFAに真実を公表してほしいのだ。

――最後に日本のサッカーファン、日本代表サポーターに対して伝えたいことはあるか?

 日本人が私にこれほどまで身近に寄り添ってくれていたことを知らなかった。来日後、東京を歩いてそれを確信した。道ですれ違うと、みんな励ましと同情の気持ちを表してくれた。昨日の記者会見では400人近くの報道関係者が駆け付けてくれて、会見終了時には大きな拍手をいただき、とても感動した。共に働いてきたJFAのスタッフからも、温かい言葉をかけてもらった。先ほども話したが、15名ほどの日本代表選手からも感動的なメッセージが届いた。

 私を支えてくれたすべての人に、心より感謝の言葉を贈りたい。残念なことに、今の時代は何が起きてもおかしくない。サッカーよりもビジネスが重要視される時代だ。ただ、今回の件は決して受け入れることができないし、受け入れるつもりもない。解任の理由がいわゆる「コミュニケーション」だと言うなら、事実無根である。JFAには真実を話して、解任の本当の理由を明かしてほしい。それを公に発表してほしい。私を支援してくれている人たちに感謝したい。

2/2ページ

著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント