「サッカーを文化として根付かせたい」 山口・霜田正浩監督インタビュー<前編>
“ノージャッジ”の練習はしたくない
攻め勝つ山口のサッカー。サイドからも、中央からも連動したアタックを仕掛ける 【(C)J.LEAGUE】
飛び出すには、勇気が必要ですよね。勇気を持たせるには、どうすればいいか。日々のトレーニングしかない。いくら試合で「裏を狙え」と言っても、練習でやってなければできない。練習で、ミスになってもいいから、足を前に出すことを習慣づけているから、試合でボールを持った選手がフリーなら裏を取る、ということがファーストチョイスになるわけです。それができたら、今度はタイミングの問題が出てくる。何でもかんでも裏ではダメ。その判断を磨くには、これも練習しかない。だから僕は“ノージャッジ”の練習はしたくない。常に条件を与え、考えさせて、判断させるようにしています。
――高木選手、オナイウ選手、小野瀬康介選手の3トップが強力ですが、インサイドハーフの大崎淳矢選手、ルーキーの山下敬大選手もどんどん飛び出していく。彼らは4−3−3のインサイドハーフですが、まるで2シャドーのようですね。
そうですね。なぜ、そうしているのか、なぜ、あのシステムなのかはロジックがあって、あまり詳しく言えないんだけれど(笑)。
――言える範囲で教えてください(笑)。
うちは戦力でほかのチームを上回るほど資金がないし、ハードワークはJ2のどのチームもやっているから大きく差を付けられない。守り切ろうとしても、最初は頑張れても90分守り続けるのは不可能だし、そもそも守ることが前面に出るようなチームカラーでもない。つまり、攻め勝つしかないと。ただ、1人で相手を崩せるほどのクオリティーを持った選手はなかなかいないから、単発のアタックはダメ。サイドからも、中央からも複数の選手が連動したアタックを仕掛けるということを念頭に置いて、相手のゴールに向かって矢印をどんどん突き刺そうと。では、どういうシステムなら前に重心を置けるだろうか、相手の最終ラインにどれだけプレッシャーを掛けられるだろうか、ということを考えたわけです。
――前からハメにいきたいと。
だから、僕は攻撃と守備を分けていないし、相手がボールを持っているときが一番のチャンスだと思っている。そういう意味では、前に重心を置いたチームをイメージして、そういう選手たちを獲得できたのも大きいし、(小野瀬)康介が残ってくれたのも大きいです。
チームには「下がる」という言葉はない
オナイウ(中央)がブレークし、得点ランキングトップを走る 【(C)J.LEAGUE】
アンカーに守備的な選手を置かないと守れない、という固定概念をぶっ壊したかったんですよ。うちのように戦力が潤沢ではないチームでは、今いる選手を成長させることが一番重要。三幸をアンカーで起用することで、「後ろで人数をかけて守るわけじゃないよ」というメッセージを送るのも1つ、一方で、三幸自身も守備がすごくできるようになってきた。
――ヴァンフォーレ甲府やSC相模原時代は攻撃的なボランチという印象でしたが、今は相手をつぶしたり、スペースを消したりもしています。
できないだろうなと思ってやらせないと、ずっとできないままだけれど、できるかもしれないと思ってチャレンジさせると、試合を重ねるごとに成長していく。そうなると、無理をして守備的なアンカーや屈強なセンターバックを獲らなくて済みますから。
――アンカーを置く場合、その両脇のスペースが泣きどころと言われますが、インサイドハーフが下がるときもあれば、センターバックが出ていったり、サイドバックが埋めていたりと、「前へ」という意識は、守り方にも表れていますね。
そう、だから僕のチームには「戻る」という言葉はあるけれど、「下がる」という言葉はないんです。前の選手にプレスバックは求めるけど、ディフェンスには「下がるな」と言っている。ただ、それも勇気がないとできない。裏を取られるのが怖いと下がってしまうから。今まで日本のサッカー界では抜かれるのを恐れて「寄せ過ぎるな。手前で止まれ」と教えてきたでしょう。でも、それを続けていると、行かなくなる。イコール、下がる。その固定概念もぶっ壊したいんです。
――ジェフユナイテッド千葉でも、浦和レッズでも出番に恵まれなかったオナイウ選手がブレークしていますね。
伸び伸びやっていますよね。思い切りがよくなって、足が振れている。今、阿道は点を取ることしか考えていない。それはストライカーとして一番大事なこと。もちろん、守備をしなくていい時代ではないから、前からプレッシャーを掛けてもらっているけれど、それでこぼれたボールを(高木)大輔が拾えば、阿道の得点チャンスにつながる。
――ショートカウンターを仕掛けられるチャンスになりますね。
そういうことを阿道は今、理解しているから、喜んでプレッシャーを掛けにいっている。もちろん、強力な外国人ストライカーがいてくれたら助かるけれど、僕自身が勇気を持って、日本人選手たちを信じて任せないと日本人ストライカーが育たないと思っています。
――気になるのは、夏場を迎えたときでも、このインテンシティーの高いサッカーができるのかどうか、ということです。
僕自身も考えています。夏が来るのは分かっているし、日本の夏がどれだけ暑いのかも分かっている。今のようなインテンシティーの高いサッカーを続けていたら当然、疲労はたまるし、消耗もする。でも、ブレずに続けるところと環境に対応する部分をしっかり分けたい。だから、すでにいろいろと考えています。自分が監督になったら、こういうことをしようというアイデアを、ずっと貯めてきたからね。今、いろんな引き出しを開けて、貯めてきたものを出しているところです。