「問題があるとなぜ言ってくれなかった」 ハリルホジッチ前監督 解任後の会見

スポーツナビ

「真実」はまだ見つかっていない

熊本県への感謝を語るハリルホジッチ氏。スーツの胸元にはくまモンのピンバッジが光る 【スポーツナビ】

――サポーターとして記事を書いている者だが、私たちにとってこれは最悪の悪夢。あなたと一緒にW杯の本大会を戦いたかった。日本サッカー界がひどい状況に陥った際に、われわれサポーターはどのように振る舞えばいいか、アドバイスがほしい。何十万、何百万もの日本代表サポーターに対してメッセージがほしい。

 アリガトウゴザイマス。私のように傷ついている方が多くいると聞いて、このように励まし、サポートのメッセージをもらったことは今までなかった。日本だけでなく、今までなかった。本当に深く傷ついたし、なぜなんだろうという思いで日本に来た。ぜひ一緒に東京の街を練り歩いてほしい。「ハリル監督!」「ハリルさんだ!」と道端でも多くの方々に声援をもらえる。すごくうれしい。でも、何が起こったのかと皆が質問してくる。(解任の理由は)私から会長に直接質問したいと思っている。

 私の得意分野である最後の詰めの仕事をさせてもらえなかった。W杯ブラジル大会でも、かなりいい監督だったと自負している。W杯の出場権を得られたこの日本でも、いい仕事をしたと思っている。日本で仕事をしてきたのに、ここからだという時に仕事の続きができなくなった。深く傷ついている。

 皆さん、サポーターの方々と同じように深い傷を負っているが、まだ答えはない。しかし、本当にサポートしてくれてありがとう。心から感謝している。このように私をサポートしてくれる方がこんなにいることは、今まで分からなかったかもしれない。まだ全部を語り切っていないのかもしれないが、一番素晴らしい試合、それはサポーターとの試合かもしれない。サポーターの心をつかむという勝利を収めたのだったら、それはうれしいことだ。

――真実を探しに来日したと言っていたが、結局、解任された理由における「真実」とは何だったのか? またW杯で日本代表を応援するか?

 残念ながら、真実を探しにきたと言ったものの、まだ真実は見つかっていない。何人かの選手が不満を漏らしたという話は聞いている。会長、テクニカルスタッフの何人かとコンタクトを取っていたようだが、西野現監督がどういった役割を果たしていたのか私には分からない。まだ私が監督だった時に、西野さんが「ちょっと注意した方がいいかもしれない。不満を持った選手がいる」と言いかけていた。本当に何か問題があったのだとしたら、会長が事前に「こういう問題が起こっている。どうするんだ、ハリル」と言ってくれればよかった。西野さんも私に警笛を鳴らすなり、インフォメーションをくれればよかった。あるスタッフとは話したけれど、なぜ私の方のスタッフ、ジャッキー、モワンヌ、ルグシッチとは話さなかったのか。

 その不満を漏らしている選手というのは2名なのだろうか。私の方には、15人くらいの選手が直接メッセージを送ってきている。本当に会長から前もって「ヴァイッド、問題があるみたいだよ」と教えてほしかった。解雇する権利を持っているから、解雇することについては問題ではない。何か問題があったのであれば、その原因は何なんだ、と会長が監督に聞いてきてほしかった。会長の決断は正しいが、今の現状、私がすごくショックを受けているのは、前もって誰も何も教えてくれなかったことだ。そして、突然会長自らパリに来てくださったわけだが、突然の解雇だった。「コミュニケーションと信頼が薄れている」というのが分からない。日々のミーティングや全体会議でコミュニケーションは取っていたつもりだ。多くの仕事を私1人ではなく多くの人で構築してきた。本当にどうしてなのか、答えが知りたい。

 2番目の質問だが、私は日本の永遠のサポーターだ。いろいろなことを混ぜることができない、まっすぐな性格なので、今まで関わってきたチームと親密な関係を築きたいし、ずっと私の忠誠心は変わらない。日本の選手やスタッフの多くに、まだ私は心が通っていると信じている。

 ガンバッテクダサイ。

 これは心からの言葉だ。リップサービスではない。私について好きなだけいろいろなことを言ってもらって構わないが、私のまっすぐな、正直な気持ちは心からのものだし、揺るぎないものだ。本当に今回、この事態について何と申し上げたらいいか。非常に心残りだ。どういうことなのか。

 もう1つお願いがある。個人的なメッセージになる。チームに関わった全ての人たち、サポーターにも先ほど感謝の言葉を述べたが、熊本県にも個人的に感謝をしたいと思っている。特別なメッセージを熊本県からもいただいた。こういう状況になってしまったが、W杯前に熊本に足を運ぶと約束したので、行きたいと思っている。それと、熊本県と約束したのは、試合ごとに熊本のバッジをつけるということ。次回、私は観光客として熊本に足を運ぶだろう。友人に「また日本に行くのかい?」と聞かれるが、もちろん自信を持って「はい」と答える。私も、私の家族も日本が大好きだ。素晴らしい場所を観光させてもらった。まだ北には足を運べていないのが残念だが、私はまだ生きている。また、お会いしましょう。

「日本代表は今、窮地に陥っている」

会見後にはプレゼントのネクタイを受け取り、感謝を述べた 【スポーツナビ】

――これまでのチームでもコミュニケーション不足を理由に解任されたことはあるか。こういった理由についてどう感じているか?

 初めてだ。今まで聞いたことがない。全ては覚えていないが、コミュニケーションというのは意味があまりにも広すぎて、誰と、など詳しく教えてほしい。また来日して滞在5〜6日目だが、多くの人が私と話をしにきた。私の知らないところで、知らない話が行われている気がする。W杯の代表23人を選ぶのは、日本だけでなく、どこの国にとっても、多くの軋轢(あつれき)が起こるものだと思う。監督、選手にとってW杯出場はどのような意味を持つか。選手、監督にとって素晴らしいプロモーションであり、名誉なことではないか。全試合で負けたとしても、W杯に出たということは非常にポジティブなイメージではないか。

 本当に傷ついている理由は、全てが整い始めていたところだったからだ。W杯に出るぞ、そしてこれから千葉、オーストリア、ロシアでも合宿が控えていた。全ての準備を事務局側と整えていこうとしていた。細かいディテールまで詰めていくところだった。どれだけ大変な仕事量か。ここ2カ月で(W杯ブラジル大会の)日本対コロンビアの映像を10回くらい見たと思う。

 言い忘れたことがあった。2月に海外組の長谷部(誠)や(川島)永嗣、吉田(麻也)、長友(佑都)といったベテラン選手に実地調査というか、コミュニケーションを取った。選手たちのモチベーションは高かった。それが1カ月後にコミュニケーションが薄れたと言われた。準備が全て整ったところで、次の監督に引き渡すような形になった。これから4週間、一緒に働けるとワクワクしていたところだった。どこまでいけるのか分かっていたのだが、会長が来て「では、サヨナラ」と。突然の出来事だったし、事前に何も知らされていなかった。何でなのか、私が逆に教えてほしい。歴代の監督にも話を聞いたが、分からないと。真実を私だけでなく、サポーターの皆さんにも伝えてほしい。

 おまけに、この時期になぜなのか。こういった時期にこういった結果、本当にそれでいいのだろうか。舞台はW杯。私の心の内がどのようなものか、分かってもらえるだろうか。街で出会うサポーターが、どういった声を掛けてくれるのかを見たら、分かってもらえるかもしれない。この段階で協会はかなり大きなリスクを背負ってしまったのではないか。フランスでも「日本でそんなことが起こるの?」とよく言われる。日本はリスペクト、お互いを尊重する国だと聞いていた。代表監督に対する仕打ちとして、皆さん、いかがだろうか。

 ウクライナに負けた、といった結果を突きつけられたのならまだ理解できる。W杯までにいろいろと準備をしなければいけないから、ぜひベルギーに来てくださいと会長に言ったら、別件が入っていると言われてしまった。会長の記者会見で「テクニカルコミッティー(技術委員会)がコミュニケーションの修復を試みた」という話だったが、その存在すら私は知らなかったし、誰も私のところに来て話をしていない。私のオフィスに来た時にあいさつの握手はしたかもしれないが。西野さんも後から加わったが、テクニカルディレクターの役務は初めてやる方だった。確かに彼とのコミュニケーションは非常に少なかったかもしれない。後からやってきたので。

 全てのトレーニング、会議で、常に一緒にいた。選手はこのリストでいこうかと提案した時、ローカルの選手も起用したりしたので、彼の意見を求めたりもした。だが、あまり多くを語らない人だった。試合中だが、GKの第2コーチとともに選手たちの観察をしてくれと頼んだら、ハーフタイム前に彼らは降りてきて情報をくれる。そうするとハーフタイムにロッカールームで選手たちに話ができる。全てのトレーニングにも彼は参加していたが、いつも「良かった」と言っていた。一度、西野さんに聞かれたのは、フランスでの技術委員長はどのような仕事をするのかということだった。

 私の知らないところで、どういったやり取りがあったかは不明だ。あえて聞いたりはしていない。会長から私が望めば会うということはしてくれたようだ。そして、技術委員長からベルギーで、ちょっと選手が1人不満を言っているんじゃないかという話を聞いた。私は友好な関係を築けていると思っていた。問題はどこにあったのか、皆さんからもぜひ聞いてもらいたい。

 そして最後に、皆さん、記者の方々にも申し上げたい。メディアの方々、記者の方々には心より御礼申し上げたい。私に入ってくる情報量は非常に少ない。批判もあるという話も聞いている。日本の記者の方々は、それでも私にとっては優しい人だったと思う。このタイミングは非常に特殊で、何が起こっているのか本当に分からない。どうか、記事を書く皆さんは客観的に記事を書いてほしい。私のことをどう言っても構わないが、日本代表は今、窮地に陥っていると思うので、これから頑張って準備をしていくことだろう。サッカーの世界では、W杯はこれ以上ない試合になる。危険性をはらんだ素晴らしいW杯だ。お願いだから、彼らに準備の時間を与えてあげてほしい。日本代表にはぜひ、いいW杯、いい試合をしてほしい。

 最後に記者の方々から、全員ではないけれども、記者会見が終わるごとに拍手をもらってきた。その拍手に心より御礼申し上げたい。アリガトウゴザイマシタ。

 また皆さんにお目にかかれるのを心より楽しみにしている。心より、アリガトウゴザイマシタ。

3/3ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント