レバンドフスキはDFを見て逆を突く達人 日本守備陣との対決は「心理戦」になる

西部謙司

ファン・バステンを想起させる万能CF

W杯で日本が対戦するポーランド代表のエースにしてキャプテン 【Getty Images】

 ロベルト・レバンドフスキの父親は柔道のチャンピオンだったそうだ。母親はバレーボールの選手で、妹もバレーボールのポーランドU−21代表だった。さらに妻は2009年の空手ワールドカップ(W杯)で3位。もちろん本人が最も有名な選手だが、家族も全員アスリート。そのせいかどうかはともかく、レバンドフスキは「万能の9番」と言われている。

 柔道家のようにパワーがあり、空手家のように足が高く上がる。バレーボール選手のようにジャンプする。パワー、スピード、テクニック、得点感覚が抜群の上に、アシストもできるし、守備力もある……何でもできるセンターFW(CF)と言える。

 90年代に活躍し、3度もバロンドールを受賞した元オランダ代表のマルコ・ファン・バステンも典型的な万能CFだった。ファン・バステンもあらゆる形で得点し、チームプレーも巧みだった。ただ、オランダ人に言わせると彼は「テクニックの選手」だそうだ。ファン・バステンと同時期に活躍したルート・フリットも万能型だったが、フリットへの評価は「フィジカルの選手」である。

 言われてみれば、ファン・バステンはあまりパワーがない。スピードと長いリーチ、体の使い方のうまさ、その長身からパワーもあるような印象だったが、シュート自体はあまり強くなかった。88年のユーロ(欧州選手権)決勝で決めた強烈なスーパーボレーは伝説だが、あれは空中にあるボールだったからだろう。

 ファン・バステンの練習は何度か見たことがある。正直、そんなにテクニシャンとも思わなかった。「フィジカルの選手」であるはずのフリットの方が器用だった。ただ、試合になると確かにファン・バステンはうまいのだ。対敵で発揮されるテクニックだったからだろう。ボールと敵と自分の関係から、最適な場所にボールを置ける。

 レバンドフスキも万能型でファン・バステンよりパワーもあるが、やはり「テクニックの選手」だと思う。

相手を出し抜く「小さな肩の動き」

香川真司とも一緒にプレーしたドルトムント時代にブレーク 【写真:アフロ】

 10年にポーランドのレフ・ポズナンからドイツのボルシア・ドルトムントへ移籍。移籍金は450万ユーロ(約6億円)と言われているのでそんなに高くはない。移籍して最初のシーズンはあまり出番もなかった。FWにはルーカス・バリオスがいて、レバンドフスキは2番手扱いになっていた。2011−12シーズンにバリオスの負傷で起用されるようになってからブレークしている。

 184センチあるが俊敏でパワーもありテクニックが丁寧だった。ワンタッチゴールもドリブルシュートもできて、ありとあらゆる形から点が取れる。さらにポストプレーの確実さはドルトムントの縦に速い攻撃とゲーゲン・プレッシングの組み合わせを可能にしていた。

 レバンドフスキはボールタッチが柔らかい。ボールを持ったときの姿勢がよく、上体のフェイントを使える。これはあまり目立たないのだが、少し肩を動かすだけでもDFはシュートの気配を察するので、足を出したり、逆に動きを止めたりする。特にシュートレンジでは効果的だ。優れたストライカーはだいたいこの肩のフェイントをうまく使う。ほんの小さな動きなので分かりにくいが、レバンドフスキはPKのときにも使っているので、それを見るとよく分かる。肩の動きも含めて1回キックフェイントを入れてGKの逆を突いている。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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