ガッツポーズは「幸せと感謝」の体現 広島・城福浩監督インタビュー<後編>

飯尾篤史

2位に勝ち点9差をつけて首位を快走している広島。笑顔を取り戻した指揮官は、今何を思っているのだろうか 【(C)J.LEAGUE】

 大きな挫折を乗り越え、笑顔を取り戻したサンフレッチェ広島と城福浩監督。インテンシティーの高いタイトな守備に、連動性あふれる攻撃を少しずつ積み上げ、進化を続けている。

 J1リーグ第9節が終わった時点で8勝1分けの無敗。2位に勝ち点9差をつけて首位を快走しているが、「このまま順調にいくとは思っていないし、このチームはまだまだ成長できる」と指揮官は未来を見据えている。

 ここまでのチーム作りとその成果を尋ねた前編に続き、後編では青山敏弘や川辺駿ら選手たちとの向き合い方、現場から離れていた1年半の想いについて話をうかがった。(取材日:4月10日)

青山はあるべき姿を一から整理している

城福監督は「まだまだ老け込むような年齢じゃない」と青山を評価。ボランチとしてのあるべき姿を一から整理しているという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――かつて青山選手は「自分はあのシステム(3−4−2−1の可変システム)でしか輝けないんじゃないか、という不安がある」と話していました。しかし、今は4−4−2のセントラル・ミッドフィルダーとして、さらなる進化を遂げているように見えます。

 去年、彼はキャプテンとしてものすごくつらい1年を過ごしたと思う。サンフレッチェに来たとき、僕はなんとなくだけれど、世代交代を求められているような雰囲気を感じて。でも、まだまだ老け込むような年齢じゃない。そこで、池田誠剛(フィジカルコーチ)を中心としたメディカルチームのサポートで、肉体改造に取り組んでもらいました。

 これは青山だけでなく、水本裕貴、丹羽大輝、千葉(和彦)ちゃん、柴崎晃誠……中堅選手をはじめとした全員に取り組んでもらっているんだけれど、それは大きいと思います。もう1つ、プレーヤーとしては、これまでは後ろに3人いてくれた、隣にも森崎カズ(和幸)がいた、前線にも自分が出したいタイミングで走り出してくれるストライカーがいた。そんな状況から大きく変わった中で、彼はボランチとしてのあるべき姿を今一度、一から整理しているんです。

――プレースタイルが築き上げられた中で、簡単ではないですよね?

 簡単ではない。でも、本当にワンプレー、ワンプレー、丁寧に確認して、整理している。例えば、紅白戦をやっても、「今、俺が付いていかなきゃいけないの? 受け渡したほうがいい?」ということを本当に1つ1つ潰している。こっちも、彼の疑問に対して答えとなるような約束事を常に提示するようにしているけれど、あれだけ栄冠を勝ち取った選手が、これだけサッカーと真摯(しんし)に向き合っていて、まだまだうまくなりたいと思っているのかと。こうした青山の姿勢が、このチームを象徴しているのかな、と感じています。

――それでも青山選手を途中交代させるときがありますよね。

(2節の浦和)レッズ戦でも、(4節の)ジュビロ(磐田)戦でも交代させている。もちろん信頼しているけれど、やれていることと、やれていないことの線引きをハッキリさせないと、青山だけでなく、チーム全体の信頼を失うでしょう。だから、誰に対しても特別扱いはしない。ただ、青山はチームのことを本当に思っている。冗舌じゃないし、試合以外では叱咤(しった)激励するタイプでもない。普段は物静かで、むしろ不器用なところもあるぐらいなんだけれど、チームへの想いが溢れ出ている。

 シーズン前に話し合ったときも、「なんでチームがこうなってしまったのかを知りたい。自分はこう思っているけれど、よく分からないというか、霧がかかっているんです」と苦しんでいた。そんな彼を見て、キャプテンは彼しかいないと思ったし、こういうキャプテンシーもあるんだなと。

川辺は突き抜けてくれないといけない選手

川辺は「もうひとつ上に突き抜けてくれないといけない選手」と期待を寄せる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――一方、22歳の川辺選手がジュビロで大きく成長して帰ってきました。クラブの未来を担う存在で、サポーターの期待の星でもある。城福さんもチームの主軸に育てたいでしょうけれど、ポジションを約束するわけにもいかない中で、どう向き合って、どんな声を掛けているのでしょうか?

 彼は、将来を嘱望されながら出場機会に恵まれずジュビロに行って、名波(浩)監督のもとで成長して、ボランチのポジションをつかんだわけですよね。ジュビロは昨年、サンフレッチェよりもはるかに上の順位だったし、周りもすごく期待している。彼だってサンフレッチェ再建の中心になりたいと意気込んで帰ってきたと思う。

 もちろん、才能があるのも一目瞭然。でも、まずはここで、自分がチームの中心になれる存在であることを見せないと。今は自分のやりたいポジションかどうかは分からないけれど、そこでも可能性を示さなければいけないし、日々のトレーニングの中でやりたいポジションを勝ち取らなければいけない。今はまだ苦手とするプレーがあって、それは単純に守備ということではなく、攻撃面にもあるから、それを克服しなければならない。

――サイドハーフを務めていたり、ベンチスタートだったりする今の状況は、彼にとってさらに成長する大きなチャンスだと。

 そう。もうひとつ上に突き抜けてくれないといけない選手だから。僕が「川辺は日本代表になれるだけの才能がある」と言っても、陳腐なものになってしまう。それは彼自身が証明しないといけないし、高いレベルの壁だけれど、彼はサッカーのことを本当によく考えているし、志高く真摯(しんし)に取り組んでいるから、彼自身がよく分かっていると思います。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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