コロンビアの10番はヒラメキの怪物 ハメスがピッチで見ている「すげえもの」
目で見るというより脳で見る
2014年ブラジルW杯でベストゴールに輝いたのはハメスの美しい一撃だった 【写真:代表撮影/ロイター/アフロ】
後方からの浮き球のパスを左肩あたりでコントロールし、そのままボールが落ちる前に反転しながら左足のボレーでたたき、バーの下へミドルシュートを決めている。このときハメスが見ていたのは「すげえもの」ではなくてボールだった。コントロールしてからシュートするまで、よそ見をする余裕はない。ただ、その間に五感を研ぎ澄ませて周囲の動きを察知しようとしているのは感じられた。
反転してシュートのイメージは持っていただろうが、敵がシュートコースに入ってくるかどうかは間接視野で捉えていたに違いない。コースは空いている……それを確認しているからこそ、落ち着いて自分のポイントでボールを捉えている。ハメスが周囲の動きを気にしていたと言えるのは、シュートを打ち急がなかったからだ。弓矢を引き絞るように、十分にタメてから打ち抜いていた。もしボールだけに集中していたなら、もう少し早いタイミングで蹴っていただろう。「すげえもの」はすでにボールを止めた瞬間に見えていたのだ。実際に間接視野で見たのは、確認にすぎない。
つまり、目で見るというより脳で見るのだ。
中途半端な位置にいるハメスに注意
4年前のW杯では、ハメスに翻弄された日本代表。今度こそ彼を止められるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
われわれが例えば自動車を運転するとき、標識や信号など周囲の状況をさほど意識して捉えていない。もちろん注意はしているが、いちいち考えずに見て反応している。目から入った情報を脳で判断して実行に移すまで、無意識に近くスムーズに行っているはずだ。
フィールドのクリエイターもそれに近い。目と脳と足がほぼ直結している。よく「考えてプレーしろ」というが、実際には考えていては遅い。考えるという意識もなく、ほとんど反射的に正解をたたき出す、さらに敵の予測していない意表を突くプレーをする。
中村憲剛は「すげえものが見えちゃう」と言っていたが、見えた瞬間に「すげえことを考えついている」のだ。ハメスが自分のところに半ば偶発的にボールが来たとき、相手ゴールに背を向けていたからこそシュートを狙った。その瞬間、敵はまさかそこからシュートをしてくるとは予測していないからだ。その状況はハメスが意図的に作ったものではないが、その瞬間の周囲の“絵”がインプットされた瞬間に「すげえもの」がイメージできていたわけだ。
では、このヒラメキの怪物を相手に、日本代表はどう戦えばいいのだろう。
ハメスは2列目の中央か左サイドでプレーする。正直、左サイドにいてくれれば対処はしやすい。左ウイングとしてのハメスは左足の高精度クロスはあっても、飛び抜けたスピードがあるわけではない。フランスリーグでネイマールと何度も対戦している酒井宏樹なら、そう簡単にやられはしないだろう。問題は中央付近でプレーするハメスだ。
厄介なのは、ハメスがわざと守備をしないことだ。守備をさぼっているのではなく、守らなければいけないときはちゃんと戻るのだが、味方が攻め込まれているときにわざと守備に戻りきらず、中途半端な位置にいることがある。味方がボールを奪ったときに、すぐさまパスを受けてカウンターの起点となるためだ。つまり、一番危ないのは日本が攻撃している場面なのだ。
日本の攻撃が阻止されて、ハメスにボールが渡る。そのときはもう手遅れになりかねない。日本のMFの背中に隠れていて、急に動いてパスを受ける。これを防ぐには、DFが前へ出てつぶすしかない。日本のMF陣は背後のハメスが見えていない。だから距離的にはハメスに近いMFよりも、距離は遠いがハメスを見ているDFが対処したほうがいい。
ただし、寄せが遅ければ逆効果になる。日本がコンパクトに攻守を行えるかどうかが、カギになるだろう。