ハリルはW杯でどう戦おうとしているのか “仮想マッチ”で見えた狙いと伸びしろ

清水英斗

W杯出場決定後、ハリルホジッチ監督はどんなトライをしてきたのだろうか 【Getty Images】

 3月の欧州遠征が終わり、いよいよワールドカップ(W杯)ロシア大会が近づいてきた。昨年8月にW杯出場を決めてから、日本代表はどのように強化を進めてきたのだろうか。2017年11月のブラジル戦とベルギー戦、そして3月のマリ戦、ウクライナ戦の欧州遠征4試合をもとに、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が世界でどう戦おうとしているのか。その狙いを分析してみたい。

欧州遠征のテーマは「ミドルゾーンの守備」

相手に合わせてシステムを変更。守備のベースは見えてきた 【Getty Images】

 欧州遠征の4試合で、ハリルジャパンがトライした大きなテーマは、「ミドルゾーンの守備」だった。

 昨年8月、W杯最終予選のホームで行われたオーストラリア戦では、ハイプレスが機能して2−0で勝利を収めた。だが、対戦相手のレベルが上がると、プレッシングをかわされるか、ロングボールで直接的に起点を作られる回数が増える。むやみやたらには追えないし、ハイプレスのみでは戦えない。ミドルゾーンで構える守備は、オーストラリア戦でも綻びを見せたが、この点を改善しなければ、ゲームコントロールはままならない。

 そして、ミドルゾーンのブロックは、世界のアタッカーに適応するため、よりコンパクトに締める必要がある。そこで欧州遠征では槙野智章を中心に、最終ラインを高く保つことが徹底された。そのことで裏のスペースを突かれるリスクを負うが、中盤のスペースを縮めてプレッシャーをかけなければ、世界のアタッカーは好き放題に崩すクオリティーを持っている。アタッキング・ディフェンスの次元を上げることは、欧州遠征の重要なテーマだった。

 システムは、ブラジル戦とマリ戦、ウクライナ戦が「4−2−1−3」。ベルギー戦が「4−1−2−3」。相手ボランチが1枚なら、中盤は正三角形。相手ボランチが2枚なら、逆三角形。はっきりと形をかみ合わせる。もちろん、その配置から大きく動く中盤の選手もいるが、それを追うか否かは、ファーストディフェンスの高さ次第。低めに自陣で構えるときは、「4−4−1−1」になる。守備のベースは見えてきた。

W杯用に、守備はベースアップと引き出しを増やす

欧州遠征では守備のベースアップと引き出しを増やすことに主眼が置かれたのではないか 【Getty Images】

 あとは本番の対戦相手に合わせ、どのようにチューニングするか。

 マリ戦は「仮想セネガル」の位置付けだったが、本番でサディオ・マネとケイタ・バルデの両ウイングを中心とする攻撃に対し、どのように守るのか。その形は見えなかった。日本の両ウイングはシューターの宇佐美貴史と久保裕也、MFには大島僚太と、攻撃的な選手がズラッと起用されている。とてもワールドクラスの両ウイングをリスペクトした布陣とは思えない。マリがセネガルと「ブラザー・カントリー」とはいえ、単純に個の力が違うため、試せなかった。あるいは試さなかった部分なのだろう。

 一方、ウクライナ戦は「仮想ポーランド」だったが、イメージした相手とはだいぶ感触が違う。ウクライナは両サイドが幅を取り、中央に人数を集めてショートパスで崩す、現代欧州的なスタイルだった。この手のチームは、日本のグループにはいない。どちらかと言えば、昨年に対戦したベルギーの方が、「仮想ポーランド」に近かった。センターFWに当てて起点を作り、複数人が縦に飛び出す速攻スタイル。サイドからシンプルにクロスを入れること、システムが同じ3バックであることを含め、結果論だが、ベルギー戦の方が「仮想ポーランド」に近いものだった。

 そのような違いからも、3月の欧州遠征は「仮想」とはいえ、あくまでも守備は、対世界用にベースアップすること。そして相手の変化に対応するため、守備の引き出しを増やすこと。これらに主眼が置かれたのではないか。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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