ハリルはW杯でどう戦おうとしているのか “仮想マッチ”で見えた狙いと伸びしろ

清水英斗

攻撃面で興味深い大島の起用

マリ戦での大島の起用は、「仮想セネガル」の一部だったのだろうか 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 逆に、「仮想」として興味深いのは、攻撃面だった。

 マリ戦のハリルジャパンは、ロングボールを多用している。裏のスペースを突くか、そのセカンドボールで攻めるか、あるいは逆サイドのウイングにダイアゴナル(斜め)に蹴るか。これらのパターンが多かった。

 W杯本番で対戦するセネガルは、イドリッサ・ゲイエ、シェイフ・クヤテなど、屈強なボールハンターを中盤にそろえている。そこに無理にクサビを入れて勝負するよりも、ロングボールで彼らの頭上を越え、一気に最終ラインのすき間を攻め落とす。シンプルに攻めた方が、カウンターからマネ、バルデらにスペースを与えるリスクは減る。


 もう1つ、興味深いのは大島だ。「テクニック面では日本でもベストプレーヤーの1人」とハリルホジッチが評価するMF。彼のスタメン起用は、単なる個人のテストだったのか、それとも「仮想セネガル」の一部だったのか。さすがに90分ロングボールを蹴り続けても、崩せる可能性は低い。大島の技術を生かしてボールハンターのギャップを突き、ロングボールとのバリエーションを付けて攻める。そんな意図があれば面白い。

攻撃の狙いは「サイドチェンジ」からの打開

攻撃の狙いは「サイドチェンジ」からの打開。しかし、最終局面では個人のアイデア頼りだった 【Getty Images】

 一方、ウクライナ戦でのハリルジャパンはショートパスを使う傾向があった。ウクライナがボールサイドに寄り、コンパクトに守備をすることを、日本の選手たちは試合前日から知っている様子だった。そこでショートパスで一方に寄せ、サイドチェンジで打開する。攻撃の狙いは明確だった。槙野、山口蛍、柴崎岳らが精度の高いサイドチェンジを成功させ、アタッキングサードに到達している。

 あるいは前半41分の得点につながるシーンでも、右サイドで本田圭佑がキープし、逆サイドへ展開。ウクライナの中盤のスライドが間に合わず、フィルターが利かなくなったところで、長友佑都から杉本健勇へミドルパス。ポストプレーからボールを受けた原口元気が仕掛け、獲得したFKにより、槙野のゴールが生まれている。

 サイドを変え、相手の守備を外して逆サイドから攻めることは、ある程度実現できていた。本番のポーランドも、ボールサイド中心に守る意識があるので、逆サイドを突く形は有効になるのではないか。

 ただし、アタッキングサードに到達した後、攻め切る部分では、日本とウクライナに大きな差があったのも事実。日本は個で攻め切れない以上、最終局面でコンビネーションを生かして崩さなければならない。ウクライナ戦でチームとして設計されたのは、アタッキングサードへボールを運ぶところまで。最後の突破は、個人のアイデア頼りだった。その点ももっと自動化し、再現性のあるコンビネーションを築きたい。柴崎や小林悠は「それはこれから十分できること」と自信をのぞかせていた。

ハリルホジッチから学ぶべきこと

W杯に向けハリルホジッチ監督がどんな準備をするのか。日本に財産として残したい 【Getty Images】

“仮想マッチ”が、本番でどのように生かされるのか。その評価はW杯が終わってからになるが、忘れないようにしたい。

 特にハリルホジッチは、W杯での経験を評価して招へいされた監督。彼がどのような準備をしてW杯に臨むのか。何を重視して臨むのか。結果がどうなるにせよ、その経験値は財産として残したいところだ。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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