失うものがない者たちの挑戦 フライボールへの取り組みと対策・前編

丹羽政善

データからも明確なフライの優位性

2017年のワールドシリーズで5本塁打、レギュラーシーズンで34本塁打を放ったアストロズのスプリンガー 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 流れが加速するのは、フライの方が得点につながるというデータ的な裏付けがはっきりしてきたからだろう。フライとゴロの結果を調べると、15〜17年のレギュラーシーズンでこれだけの違いが出る。

ゴロ:打率.249、長打率.270、wOBA.228
フライ:打率.235、長打率.735、wOBA.381
※wOBAは打席あたりの得点への貢献度を示す指標

 打率こそゴロの方が上回っているが、長打率、wOBAでは、フライのほうが明らかに高い。

 データ分析により内野の効果的なシフトが徹底され、ゴロで内野手の間を抜くことが困難になったという背景もあるが、そうしたデータに早くから目をつけたのがアストロズで、11年から3年連続で年間100敗を喫していた彼らにも失うものははく、11年12月にジェフ・ルーナウがゼネラルマネージャー(GM)に就任すると、大胆な改革を実行し、データ分析はその要となった。そんな中で生まれたのが、“ランチアングル・ガイ(launch angle guy)”という言葉でもある。

 打球の角度を意識して打つ打者を指し、そこに打球の初速のデータを組み合わせることで、結果が予測できるようになった。

 高い確率でヒットや本塁打になる組み合わせを「バレル」と呼ぶが、それは、統計学を用いて、客観的に選手を評価するセイバーメトリクスに精通し、現在は、『MLB.com』を運営するMLBAM(MLBアドバンスト・メディア)で、データ分析などを手掛けているトム・タンゴ氏が定義した。

【NHK ワールドスポーツMLB】

 例えば、打球の初速が98マイル(約158キロ)で、打球角度(ランチアングル)が26〜30度の場合がバレルゾーンであり、16年レギュラーシーズンの場合、バレルの条件を満たす打球の打率は.822で、長打率は2.386という驚異的な数字だった。

 参考までに、初速98マイル、打球角度26度の打球をフィールド上に表すとこういう感じになる。

初速98マイル、打球角度26度の打球結果(2015〜17年) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 打率.552、単打1本、二塁打28本、三塁打4本、本塁打22本。つまり、長打になる確率が極めて高い。

 バレルゾーンに達するには打球の初速が最低でも98マイルは必要で、116マイル(約187キロ)に達するまでは、打球の初速が1マイル増すごとに角度が2〜3度ずつ広がり、最大で8〜50度という。

 いずれにしても、そうしたデータに沿って、アストロズなどは真っ先に打球角度を意識させるようになり、結果として、彼らの本塁打数が16年を除けば上位で安定しているのもおそらく偶然ではないだろう。

アストロズのシーズン本塁打数とMLB全チームでの順位
2014年:163本(4位)
2015年:230本(2位)
2016年:198本(14位)
2017年:238本(2位)

 さて、メジャーでそうした打球角度を重視しているチームとしては、ドジャースも有名だが、アストロズとドジャースに共通することがある。

 彼らには、カーブを操る投手が多いのである。

 アストロズには、ランス・マクラーズ、チャーリー・モートン、コリン・マキュー、ジャスティン・バーランダーらがおり、ドジャースにはエースのクレイトン・カーショーのほか、リッチ・ヒル、アレックス・ウッドらがいる。

 これは果たして偶然なのだろうか?

 続く――。

(次回は4日に掲載予定です)

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NHK「ワールドスポーツMLB」
BS-1で放送しているメジャーリーグ専門番組。投球の軌道をCGで再現できるツール「ゼウス」を独自で開発するなど、データ分析に力を入れています。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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