菊池雄星、開幕戦勝利に笑顔なき理由 日本で「別格」になるための第一歩

中島大輔

最後までストレートに納得いかず

3年連続開幕投手となった西武・菊池。7回2失点とまとめて勝利投手となったものの、投手二冠に輝いた昨季のような本来の投球ではなかった 【写真は共同】

 2018年シーズン開幕を迎える2時間前、まだ静かな札幌ドームの一塁側ベンチ裏で、埼玉西武の捕手・炭谷銀仁朗は先発の菊池雄星についてこう話した。

「去年は去年で、今年は今年ですから。あれだけのピッチャーなので調子がいいときにはピッチングもいいんですけど、仮に去年よりも(状態が)悪かったとして、そこをどう乗り越えられるかでしょうね」

 3月30日18時半、3万8693人の大観衆が見守るなかで北海道日本ハムとの開幕戦のプレーボールが告げられると、図らずも炭谷の言葉は現実のものとなる。1回裏、マウンドに登った菊池は明らかに制球に苦しんでいた。

「ブルペンでは良かったので、いろいろな緊張とかもあったかもしれない」

 最多勝と最優秀防御率に輝いた昨季はたとえ立ち上がりに苦しんでも、すぐに立て直すことがほとんどだったが、この日は試合中盤になっても好調時の菊池とは程遠い姿だった。

「バランスよく投げられていなかったので、なんとかフォアボールを出さないように、辛抱強くいこうという感じで投げていました。序盤に点を取ってもらえたので、いろいろなフォームの中で試しながら投げました。抜ける球も多かったので、探りながらでしたね」

 西武打線が2回に1点、3回に7点と爆発し、11対2で勝利。菊池自身は7回115球を投げて被安打4、与四死球1、2失点で今季初登板初白星を飾りながら、試合後、まるで負け投手のような顔つきだった。

「最後までストレートの納得する球がなかったので、次に向けて修正したいです」

「第3の球種」カーブの精度

 投球の軸となる速球を思うように操れないなか、粘り強い投球でチームに勝ちをもたらせることができた裏には、今季開幕までの取り組みがある。投手二冠に輝いた昨季からさらなる上積みを果たすべく、菊池はこう照準を定めた。

「自分のボールをもっと良くするためには、一番は左バッターに対する攻め方の引き出しです。去年左バッターに多く打たれたわけではないですけど、パ・リーグでは左バッターが上位に並ぶので、いかにいい左バッターを抑えていくかですね」

 プロ入り17戦で0勝12敗の福岡ソフトバンクには柳田悠岐や中村晃、上林誠知、東北楽天には銀次や茂木栄五郎、ペゲーロ、オリックスには吉田正尚、千葉ロッテには鈴木大地がいる。彼らを抑えるために、菊池は二つのポイントを掲げた。そのうちの一つが、カーブの精度向上だ。

「どんな変化球でも、体が縦回転じゃないといい球を投げられないと思うんですよ。去年くらいから縦回転でどの変化球もきっちり投げられるようになって。そうなってくると縦に落としたかったら体を縦に使うことで……変化球を覚えやすくなるはずなんですけどね(笑)」

 菊池にとってカーブは、ストレート、スライダーに次ぐ「第3の球種」という位置づけだ。昨季までは「左バッターへのカーブが抜けてデッドボールを当てたら後悔する。実際に当てたことは1度もないのに……」と左打者にカーブを投げることは少なかったが、春季キャンプで投げ込みながら精度を高め、迎えた日本ハムとの開幕戦ではこの大きな弧を描く変化球が威力を発揮した。

「真っすぐがいつもいいわけではないので、今日みたいにイマイチのときはカーブでカウントを取れればいい。そういう意味では、いい面が出たと思います」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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