菊池雄星、開幕戦勝利に笑顔なき理由 日本で「別格」になるための第一歩

中島大輔

インコースをいかに攻められるか

試合後、辻監督と握手をする菊池。チームの勝利はうれしいが、遠いゴールへ向けて目先の結果には一喜一憂しない 【写真は共同】

 ただし、もう一つの取り組みはまだ成果が現れなかった。左打者のインコースをいかに攻めていくか、である。

「外国人は別として、日本人のバッターは目付が外なので、いかにインコースに真っすぐを精度よく投げられるか。去年はどうしても真っすぐ、スライダー中心になっていたので、カーブと、ツーシームかスクリュー気味のボール、もしくはチェンジアップでもなんでもいいんですけど、左バッターの内角に逃げていく球をやっていきたい」

 開幕1週間前に取り組み始めたツーシームを携え、迎えた日本ハムとのオープニングゲーム。菊池の前に立ちはだかった左の強敵は、近藤健介だった。昨季は腰痛で離脱するまでの50試合で打率4割7厘を記録し、打撃技術は昨季首位打者の秋山翔吾(西武)に勝るとも劣らないほどである。

 今季初登板の菊池は調子がいまひとつながら、たとえ甘いコースでも球威で押し切れるストレートと切れ味鋭いスライダーで日本ハム打線を圧倒した一方、近藤には3打数で2安打を許した。1打席目は甘く入ったカーブをセンターフェンス直撃の二塁打、2打席目は外角低めの143キロのストレートをレフト前にはじき返されている。ともに8球を要し、近藤の打撃技術が光る打席だった。

 だからこそ菊池は試合後、厳しい表情を浮かべた。

「インコースの真っすぐを左右(の打者)どっちにも投げ切れなかったのが、一番の反省だと思います。近藤君のようにいいバッターになればなるほど、外で粘られて甘いところを三遊間にはじき返されてという出塁が多くなってしまうので。ああいうバッターにこそインコースに投げなければ、長い目で見たときに厳しいかなと思います」

目指すべきゴールはもっと遠い先

 開幕戦はあくまでシーズンのスタートラインにすぎない。もちろんチームの勝利はうれしい一方、菊池はもっと遠い先にあるゴールを見据えている。

 打倒ソフトバンクを果たし、チームを優勝に導くことだ。

 その目標を果たすためには、対左打者の投球内容を向上させる必要がある。逆に言えばそれができたとき、菊池はピッチャーとしてもう1段上の次元に行き、日本球界では「敵なし」というレベルまで到達しているだろう。

「僕自身はエースとかそういう名前にこだわりはないので、とにかく自分の能力の100%に向かって努力するだけです。でも、やっぱり周りは求めるので。周りが求めるエースってなんだと言ったら、大事な試合や大事な相手にいかに勝てるか。そこが本当に今年は一番テーマかなと思います」

 自分の100%に向かって論理的に努力することで能力が向上し、それが結果やタイトルという形として表れ、自然と栄誉や称号もついてくる。その先にはきっと、高校時代から憧れる海の向こうの舞台がある。

 笑顔なき、開幕戦の勝利――。

 決して目先の結果に一喜一憂せず、何より自分のベストを追求する姿は、菊池が日本球界で「別格」のピッチャーになろうとしている第一歩のように感じられた。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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