森保ジャパンが南米勢から学ぶべきこと 「内容が悪くても最後は勝つ」の重要性

川端暁彦

「経過より結果を重んじる」南米のスタイル

森保監督は南米の選手に対し「勝利に対するこだわりを持っている」と口にした(写真はメンバー発表会見のもの) 【写真は共同】

「技術的な部分で負けていたとは思わない」

 3連戦を終えたあと、監督・選手の口からそろって出てきた言葉だ。単純に個々が持つ足元のテクニックという部分について言えば、確かに3試合ともに見劣りしていた印象はない。だがそもそも、そうした日本的な評価軸自体が南米勢とは異なっているようにも思える。

 ある選手は「(南米のチームは)高校サッカーみたいなサッカーをしてくる。球際の強さ、迫力の部分がすごい」と表現していた。少々誤解を招きそうな発言ではあるが、言いたいことは分かる。実際に南米勢同士の試合を見ていても、「高校選手権でありそうな試合の流れだな」と思うことは何度かあった。割り切ったロングボールからこぼれ球を狙って競り合い、ギリギリの攻防では互いに体を張りまくる。日本的な価値観での“良いサッカー”の基準からは外れているのだが、とにかく「勝ちたい」という気持ちがみっちり伝わってくるスタイルである。

「彼らは途中の経過、内容的にまったくダメであっても『最後のところで勝っていればいい』という感覚がある。勝利に対するこだわりを南米の選手は持っている。個々の技術もありますけれど、やっているサッカーは本当ににシンプル。どちらかというと、放り込んでくるとか、カウンターを鋭く狙うというチームでした」(森保監督)

 経過より結果を重んじる気風はゴール前にもよく出ている。中盤を大切にするマインドが強い日本と違って、彼らの組み立ては総じてアバウト。しかし、勝敗に直結するところでの決める・決めさせない集中力は強烈な違いがある。試合の中でのメリハリの付け方も顕著で、勝負どころと見定めてからのスイッチの入り方、勝敗に直結するゴール前での攻防における集中力などは「見習わないといけない」ものだったのも間違いない。

長所を生かしながら、変化を付けられるチームに

パラグアイ戦の後半にゴールを決めた三好。強行日程の中で得た“学び”は、2年後につながるはずだ 【写真は共同】

 とはいえ、「では日本が放り込みでいいのかと言えば、そうではないと思う」という森保監督の言葉も正論だ。丁寧にビルドアップする日本のスタイル自体をネガティブに捉える必要はないと思うが、相手が勝負とにらんで前から狩りに来ているならば、裏へ蹴ることもあっていいし、攻撃で思い切って仕掛けられる状況を作りながらボールを大事にしすぎて機会を逸する必要もない。五輪で勝つためにはやはり、相手の状況や戦況を見ながら変化を付けられるようなチームに、あらためて仕上げていく必要があるだろう。

 日本人はどうしても形から入る部分があり、そこは長所でもある。初選出の選手が多数招集された上に練習もろくにできていなかった割りに、森保ジャパンの戦術的な“形”がかなり表現できていたのは、これまで招集された選手がしっかり復習し、初招集組がしっかり予習してきたような“生真面目さ”の産物でもある。

 ただ、サッカーは採点競技ではないので、形をこなしたところでポイントが入るわけでもない。形はファジーでも、常に勝利とゴールから逆算したプレーが選択され、結果として泥臭くても、多少しょっぱい試合になっても、あくまで勝つために戦い抜く南米勢の姿勢からはやはり学ぶべきものがあるだろう。「どんなに回されようと、最後に勝つのが強いチーム」(初瀬亮)である。森保監督は大会中に「やっぱり来て良かった」と短く漏らしていた。南米への強行軍の中で得られた“学び”は、きっと2年後の「東京」にもつながっていくはずだ。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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