苦難続きのウクライナ・サッカー界 再建を目指す“英雄”シェフチェンコ

服部倫卓

スポンサーの栄枯盛衰がクラブの浮沈に直結

マルロス(左)らが所属するシャフタールはCLで決勝Tに進出した 【写真:ロイター/アフロ】

 元々、ウクライナの各クラブは、それぞれの地元の財閥、成金が丸抱えしているケースが多く、スポンサーの栄枯盛衰がクラブの浮沈に直結する構図があった。ウクライナのクラブの収入構造を見ると、UEFAからの分配金とスポンサー収入に偏重しており、国内リーグの放映権料や入場料収入は極端に乏しい。こうした国で政治・経済危機が起き、成金の多くが没落すれば、サッカーが地盤沈下するのも当然である。

 しかも、現時点でプレミアリーグには、シャフタール・ドネツク、オリンピック・ドネツク、ザリャー・ルガンスクと、ドンバス占領地のクラブが3つもある。これらのクラブはウクライナ各地での疎開生活を余儀なくされており、試合も本来のホームタウンからは遠く離れた場所での開催となるわけで、観客動員が厳しいのも無理はない。

 そう考えると、シャフタール・ドネツクが政変後も、毎年プレミアリーグの優勝争いを続け、チャンピオンズリーグ(CL)でも健闘していることは、驚異的としか言いようがない。オーナーの鉄鋼王リナト・アフメトフ氏が、政変で一時期窮地に陥りながらも、しぶとく生き残ったことが、その背景にある。

国内の2大クラブから多数招集

 シェフチェンコ監督は20日の記者会見で、サウジアラビアおよび日本戦に関し次のようにコメントした。

「サウジについての情報は十分にある。同国では監督が代わったが、スタイルはそれほど大きく変わっていない。ミドル、ショートのパスを多用し、ポゼッションがうまい。日本に関しては、サウジとの試合が終わってから、選手に情報を与えることにしたい。これらの試合の結果はランキングに反映されるのできわめて重要であり、われわれはこの2試合を非常に重視している」

 シェフチェンコ監督が今回の2試合に向けて招集した25人の所属内訳は、海外組が7人、国内のシャフタール・ドネツクとディナモ・キエフが8人ずつ、ザリャー・ルガンスクが2人となっている。シャフタール勢は主に守備陣、キエフ勢は主に中盤から前線と、国内2大クラブが攻守の主要部分を担っている。逆に言えば、上述のように国内リーグが危機的状況でも、この2大クラブさえ安泰なら、それなりのレベルの代表チームは編成できるとも言える。

日本戦は2枚看板の1枚を欠く

ドルトムントで香川真司とプレーするヤルモレンコ(左)はけがで代表を辞退 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 最近のウクライナ代表では、左右の両ウイング(または2シャドー)が、絶対的なストロングポイントとなっている。右のヤルモレンコ、左のコノプリャンカは、世界のどこに出しても恥ずかしくない2枚看板である。ヤルモレンコはディナモ・キエフからドルトムントに移籍し、香川真司の同僚になった。日本のサッカーファンが、ヤルモレンコの変幻自在なドリブルやカットインからの左足シュートを目撃する機会も、増えていることだろう。ところが、大変残念なことに、ヤルモレンコは1月に負ったけがの回復が間に合わず、今回の代表戦を辞退することになった。

 ウクライナ代表の問題は、左右の2枚看板以外の力が、だいぶ劣ることである。その結果、ヤルモレンコとコノプリャンカの強引すぎる単独突破が目立ち、またせっかく外で崩しても中で決める人がいないということが起こる。最近シェフチェンコ監督は、トルコのカイセリスポルでプレーするアルテム・クラベツをセンターFW(CF)の軸として起用し、また若手のロマン・ヤレムチュクやアルテム・ベセージンを試しているが、いずれもエースストライカーと呼ぶには物足りない印象だ。なお、ベルギーのヘントで久保裕也の同僚であるヤレムチュクは、今回はけがで招集を見送られた。

 シェフチェンコ監督は20日の会見で、「本音を言えば、もっと高いレベルの競争を望みたい。何人かの選手はクラブで満足な出場機会を得られていないが、それでも他のクラブの選手たちよりはレベルが高いので、代表に呼ばざるをえない」と、人材難を嘆いている。

サウジ戦は1−1のドロー

シャルケでプレーする左ウイングのコノプリャンカがキーマンとなる 【写真:ロイター/アフロ】

 23日に行われたサウジアラビア戦の情報が伝わってきている。この試合でウクライナ代表は、4−3−3の布陣で臨み、ヤルモレンコの代役となる右ウイングには、ディナモ・キエフの若手ビクトル・ツィガンコフが起用された。インサイドハーフは、右には最近頭角を現しているマンチェスター・シティ所属のオレクサンドル・ジンチェンコ、左にはブラジルからの帰化選手マルロスが入った。試合はウクライナが終始押し気味だったが、終わってみれば1−1のドロー。ウクライナの得点は、コノプリャンカが丁寧に上げたクロスを、中央でクラベツが頭で合わせたものであり、CF不足に悩んできたウクライナにとっては1つポジティブな成果が得られた。

 ヤルモレンコ不在は返す返すも残念だが、ウクライナ代表は、中3日で行われる日本戦にも可能な限りのベストメンバーを組んで、日本代表の課題をあぶり出してほしいものである。

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著者プロフィール

1964年静岡市生まれ。一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所副所長。ロシア・ウクライナの政治経済事情研究の一環として、現地のサッカー事情にも関心を寄せる。ブログは、http://hattorimichitaka.blog.jp。

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