苦戦の大谷、開幕マイナーの現実味 権藤氏いわく「やられたほうが伸びる」

丹羽政善

開幕をどこで迎えるのか?

打撃面でも結果が出ていない大谷を、ソーシア監督(左)はどう判断するか? 【写真は共同】

 ただ、数字だけを見ると、投手としては、Bゲームも含めれば4試合に先発し8回1/3を投げて19安打17失点(自責16)。打者としては、9試合に出場し22打数2安打。打率は1割を切った。2回に一挙7点をロッキーズ戦後、開幕をマイナーで迎える可能性が取り沙汰されたのは、当然とも言えた。

 マイナー行きそのものは、理にかなっている部分もある。

 エンゼルスの予定を見ると、5月には休みが2日しかなく、序盤は連戦が多い。一方で6月以降は、オールスターまで週1回の休みがある。ということは中6日の先発が可能で、そこでデビューさせたほうが、無理なく大リーグに適応させられる。それまではマイナーで、きっちりルーティンを作らせることもできる。

 一方でエンゼルスは、メジャーデビューを遅らせ、サービスタイムをコントロールすることで、フリーエージェントになる時期を遅らせることも可能だ。

 今年の場合でいえば、4月12日までマイナーにおいておけば、大谷がフリーエージェントの権利を得るのは、7年後になる。また、毎年変動するが、6月中旬までメジャー昇格を遅らせれば、調停権を得るのも3年後ではなく4年後となる。有望な若手選手が開幕してから昇格する裏には、そうした“調整”がある。

 しかし、大谷のケースで、そうした小細工が通用するかどうか。

 そもそもマイナー契約の大谷は、オープン戦で結果を残さなければならない、という見方もあるようだが、それは違う。大谷の契約は実質的にメジャー契約だ。オープン戦の結果でふるいにかけることは、よほどのことがあった場合に限られる。

 また、ビジネス的な側面からも、開幕ロースターから外すことは難しいのではないか。大リーグのビジネス問題に詳しいある記者が、「シーズンチケットホルダーにどう説明するんだ?」と話していたが、確かにエンゼルスは、契約時から大谷を利用してチケットのセールスをかけ、グッズを大量に作った。

 その記者が続ける。

「開幕ロースターから外すとしたら、ビジネス部門にも話を通さなければならない」

 それこそ、調整が必要だろう。

「もともと時間がかかるタイプ」

 ただし、開幕してからは別。仮に2〜3回、先発で結果を残せなければ、ファンも納得する。サービスタイムをコントロールしようとすれば、代理人の反発を招くのは必須だが、彼らとしても矛を収めざるをえない。マイナーに降格させるなら、一度メジャーでやらせてみてからだろう。

「マイナーでの調整そのものを必要としない」と言うのは前出の権藤氏だ。

「ガツンとやられたほうが、その分、伸びる」

 レベルの低いところにいれば、成長も限られる。メジャーの凄さを肌で実感することこそ、大谷の成長薬。

「もともと時間がかかるタイプ。あいつは大丈夫。心配ない」

 ところで大谷が4打席で2三振を喫した18日のレンジャーズ戦では、ネット裏のコンコースで、エンゼルスのビリー・エプラーGMとレンジャーズのジョン・ダニエルズGMが、並んで試合を見ていた。

 大谷獲得を巡ってしのぎを削った2人は、もともと仲がいい。どんな話をしていたかまでは分からないが、ダニエルズGMが帰ろうとした時、「左投手に苦労している大谷に、なぜわざわざ、クラウディオをぶつけたのか?」と聞くと、「左対左。鉄則だ」と苦笑したが、あの日、大谷が4打席すべてで左投手と対戦したのは、偶然だったのだろうか。しかも、大谷がシーズン中に対戦するであろう先発のマーティン・ペレスとクラウディオをあえて見せた。

 同地区チームとの対戦では通常、主力投手を隠すが、ダニエルズGMがそれを惜しまなかった裏には、案外、彼のちょっとした配慮があったのかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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