手術したネイマール、復帰への道のりは? PSGと代表、本人の思惑が生んだ軋轢

沢田啓明

ブラジル代表コーチ「W杯には十分に間に合う」

復帰の目安は5月中旬から6月初め。PSGではほとんど試合が残されていない 【写真:ロイター/アフロ】

 ラスマール医師のリオ国際空港での発言をそのまま受け取ると、復帰の目安は5月中旬から6月初めとなる。5月中旬以降、リーグ・アンの試合は19日の最終節だけ。PSGは第28節までを終えて2位モナコに勝ち点差14の大差をつけて独走しており、最終節の前に優勝が決まっている公算が高い。

 仮に最終節に出場できたところで、ほとんど意味はないだろう。CLは準決勝が4月下旬と5月初め、決勝が5月26日に行われる。PSGが決勝まで勝ち上がった場合にのみ、ネイマールが出場するチャンスがある。ブラジル代表は5月21日にワールドカップ(W杯)ロシア大会のための合宿を開始する。

 ブラジル代表のフィジカルコーチは、「ネイマールは若いし、肥満しやすい体質でもない。これまで故障をしたときもリハビリに全力を傾ける姿勢を見せていたし、W杯には十分に間に合う」と語っている。

 もちろん、この言葉には希望的観測が含まれているはずだ。ただ、ブラジル代表にとっては彼がレアル・マドリー戦に出場して故障をさらに悪化させ、故障からの回復が遅れてW杯に間に合わなくなるのが最悪のシナリオだった。そのような事態を避けられたのは、不幸中の幸いだった。

“キング”ペレは、「ネイマールはセレソン(ブラジル代表)にとって死活的に重要な選手。早く回復してW杯で素晴らしいプレーを見せ、セレソンを6度目の優勝に導いてほしい」とエールを送る。

ロシアで見るのは復活劇か、悲運か

W杯でネイマールは鮮やかな復活劇を見せるのか。それとも…… 【写真:ロイター/アフロ】

 仮にネイマールが6月17日に行われるW杯初戦のスイス戦にベストコンディションではなくても、セレソンはさほど慌てる必要はない。18年のW杯南米予選でも、ネイマールが累積警告で欠場してウィリアン(チェルシー)が代わりに出場し、FWガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ)、MFコウチーニョ(バルセロナ)らと力を合わせて勝利を収めた試合があった。セレソンがW杯で頂点を極めるためにはエースの力が必要であるのは間違いないが、グループリーグの3試合で体調を整え、遅くとも決勝トーナメント以降に本来の力を発揮してくれたらそれでいい。

 しかし、右足、さらには体調全般に不安があり、試合勘も欠く状態で大会を迎え、出場した試合でまた故障をしたり極度の不調に喘ぐようならセレソンは重大なピンチを迎えることになる。いずれにせよ、当面はネイマールのけがからの回復と、リハビリの進行を見守るしかない。

 ブラジル代表では、過去のW杯でもこれと似通ったケースがあった。02年日韓大会のときのロナウドである。00年4月に右足の靭帯を断裂して手術を行い、W杯開幕の約2カ月前、実に2年半ぶりに代表に復帰した。W杯で本来のプレーができるかどうか不安視されたが、実際には8得点を挙げる大活躍で優勝の立役者となった。

 今年、われわれはロシアの地で16年前のロナウドの鮮やかな復活劇の再現を見るのか、あるいはネイマールの悲運とセレソンの敗退を目の当たりにするのか。

 確実に言えるのは、今年のW杯にさらなる見どころが加わった、ということだろう。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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