手術したネイマール、復帰への道のりは? PSGと代表、本人の思惑が生んだ軋轢

沢田啓明

激痛に涙を流したネイマール

マルセイユ戦で負傷したネイマール。苦悶の表情を浮かべてピッチに倒れた 【Getty Images】

 現地時間2月25日、パリ・サンジェルマン(PSG)とブラジル代表の関係者、サポーターに衝撃が走った。PSGの本拠地パルク・デ・プランスで行われたフランスのリーグ・アン第27節マルセイユ戦の77分、ネイマールが中盤で競り合った際に右足を痛め、苦悶の表情を浮かべてピッチに倒れた。激痛に涙を流しながら担架で運ばれ、病院へ搬送されたのである。

 翌26日、クラブは彼のけがについて「右足首の捻挫と右足第5中足骨のひび」と発表した。けがをした箇所は、右足の甲の外側、足の小指の少し手前の部分だ。この時点で全治までの期間は明らかにされなかったが、27日にPSGのウナイ・エメリ監督は「手術が必要とは聞いていない。3月6日のチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16第2戦のレアル・マドリー戦に出場できる可能性はある」と語った。

ネイマールは激痛に涙を流しながら担架で運ばれ、病院へ搬送された 【写真:ロイター/アフロ】

 ところが、ちょうどこの頃、ブラジルの複数のメディアが「ネイマールは手術をすることになった」と報じた(情報の出所は不明)。また、ネイマールの代理人でもある父親がブラジルのテレビのスポーツ番組に電話で出演し、「手術をしてもしなくても、全治まで6〜8週間かかる。けがをした状態でピッチに立つことはありえない」と明言。レアル・マドリー戦出場の可能性を完全に否定した。

 そして28日、ブラジル代表ドクターのロドリゴ・ラスマールがパリでネイマールを診察し、クラブ関係者、ネイマール本人と彼の父親と今後の治療方法について相談。クラブ側は、「非常に残念だが、手術をすることで意見が一致した」と発表した。

 この経緯について、フランスの地元メディアは「エメリ監督の意向を受け、PSGはレアル・マドリー戦にネイマールが出場する可能性を懸命に探っていた。しかし、ネイマールの父親とブラジルサッカー協会はレアル・マドリー戦に強行出場して故障箇所をさらに悪化させることを恐れ、手術を強く主張。結果的に、PSGはブラジル人たちに押し切られた」と報じた。

食い違うクラブ、本人、代表ドクターの認識

ブラジルで行った手術は無事成功。ネイマール(左)はリハビリを行い、早期復帰を目指す 【写真:ロイター/アフロ】

 手術は、ラスマール医師がこの分野のスペシャリストであるジェラール・サイヨン医師(フランス人)の付き添いのもとで3月3日にブラジルのベロオリゾンテ市内の病院で行なわれることになった。ネイマールと両医師は3月1日夜、リオデジャネイロの国際空港に到着。空港で地元メディアのインタビューに応じたラスマール医師は、ネイマールの故障について「右足第5中足骨の“ひび”ではなく“骨折”」と明言し、「通常なら全治2カ月半〜3カ月」と語った。

 パリの地元紙は、PSG関係者がこの発言を知って激怒したと伝えた。クラブのメディカルスタッフによる診断結果はあくまでも「ひび」であり、骨折とはみなしていなかった。ところが、母国へ到着後、ブラジルサッカー連盟とネイマール側は自分たちが手術を主張したことを正当化するため、事実を捻じ曲げて「骨折」と発表したと憤ったというのである。

 この夜、ネイマールはリオ郊外の別荘(敷地が東京ドームの2倍以上もある豪邸だ)で眠り、2日に自家用機でベロオリゾンテへ移動し、3日朝、手術を受けた。ラスマール医師は、「手術は成功した。完治に要する期間は今後の彼の回復とリハビリ次第だが、6週間後に検査を行う。それによって、練習を開始する時期が判明するだろう」と語った。

 ネイマールは、4日の朝に退院し、別荘へ戻った。今後は専属の理学療法士とフィジカルトレーナーの指導を受けながらリハビリを行い、早期復帰を目指す。

 PSG、本人サイド、ブラジルサッカー連盟のけがと治療に関する認識は微妙に食い違っており、小さからぬ軋轢(あつれき)を生んだ。とはいえ、すでに手術が行われた以上、今後はネイマールの回復とリハビリの進行を待つしかない。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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