阪神・横田慎太郎、復活途上の春 脳腫瘍という試練から1年
打撃練習中に流れた曲の意味
球団は地道に復活を目指す横田が1年前につけていた背番号24を空けて待つつもりとのこと。横田も今の状況にめげずに、出来ることを実直に黙々とやり、今春の安芸キャンプでは“元気部門MVP”に選出された 【写真は共同】
土屋トレーナー預かりだった横田は2月1日から“リハビリ組” に移っていた。いつも横田の打撃練習で投げている手嶋秀和トレーナーは17日、 屋外で初の柵越え打が出た時に思わずガッツポーズ! 「よくないのかもしれないけど、そりゃ出ますよ。 彼はもともと頑張るから。大変だったのに変わらず頑張るから。 1日目より2日目、 第3クールより第4クールと投げていて常に何か吸収しているのがわかる」と目を細めた。
さらに24日のランチ特打では「あの曲、投げていて泣きそうでしたよ」と。実はこの日、打撃練習中に流れていたBGMの最後が、ゆずの『 栄光の架橋』だった。 アテネ五輪の時からさまざまなスポーツの場面で聞く曲である。 何もない状況でさえ泣けてくる人は多い。それが安芸市営球場に流れ、サビの部分でちょうど柵越えが出た。大きな拍手と歓声に包まれたのは言うまでもない。涙をぬぐう人もあった。
この演出をしたのは板山祐太郎。
「あれでヨコが打って、みんな感動してくれたらと思って曲を差し替えたんです。ヨコも泣きそうになったって言っていました」
さらに板山の演出は続く。26日のランチ特打では最初に、横田の16年の登場曲『On Your Side』(Superfly)をかけ、締めは本人のリクエストで『栄光の架橋』を採用。そして27日は、朝のアップ時に流れるBGMの1曲目がZARDの『負けないで』だった。「始まる前に曲名は言わず、『泣くなよ』と声をかけたら、途中でヨコが『泣きそうです』って」と笑う。
板山の手腕は認めるが、その選曲は土屋トレーナーが謎を解いてくれた。
「『負けないで』が横田の一番好きな曲なんですよ。入院中にいつも聴いていたみたいで。鳴尾浜の室内で練習する時も、板山が一緒になったら横田の好きな曲を集めて流してくれていましたね。『栄光の架橋』もそうです」
安芸キャンプでの元気部門MVP
それは横田に聞こう。
「ミスチルの『終わりなき旅』です」
その3曲は前から好きだった?
「いえ、好きだったわけじゃないです。病気をしてからです。病院でもずっと聴いていました」
時と場合によって、言葉よりも真っすぐ胸に飛び込む歌詞がある。今まで気にも留めなかったフレーズが横田を支え、励まし、勇気づけてくれたのだ。話すのが得意ではない中、質問に答える言葉の端々から、それがわかる。大人びたと感じたのは、きっとそこだ。
安芸キャンプの“元気部門MVP”に横田を選出した矢野監督は「頭が下がるのは、どこでも声を出して元気を出してやれること。いつも一生懸命!いつも元気!本当に横田の素晴らしいところ」と絶賛する。また室内でのフリー打撃でピッチャーも務め、1球ごとに声をかけていた新井良太育成コーチも「焦らずに一歩一歩。そのサポートをしてあげたい。やっぱり人間性もあるんでしょう。実直で一生懸命で、すごく感情移入しちゃいますよね。この子のためなら、と思わせてくれる」と熱く語った。
そんな横田がキャンプ中に発した主なコメントは以下の通り。
「前だけを見てやっていきます」
「1日1日を大切にしていきたい」
「確実に一歩ずつ、必死でやっていこうと思います」
「自分に負けたり、あきらめたら終わり。自分に負けないよう頑張ります!」
「育成になったのは、(病気のせいではなく)野球の結果でなったんだと思って、悔しさを持って頑張っていきたい」
ファンに対しては「毎日、僕なんかを応援してもらってうれしいし、必ず恩返ししたいって気持ちが強いです。喜んでもらえるようにという思いでやっています。次は試合で喜んでもらいたい」と感謝の思いを告げた。
土屋トレーナーは遠く鹿児島で心配している家族のため、横田の母親に写真や記事だけでなく「動いている方がいいかなと思って」と動画も撮って送信している。その中に、鳴尾浜のバックスクリーンへ放り込む画もすぐ加わるだろう。