平野歩夢の銀メダルは妥当だったのか? 絶対王者の“演技”見抜けず誤審も……
ショーンの派手なガッツポーズはミスを隠すため
ゴール後の派手なガッツポーズは「完璧だった」とアピールする手段だったのか? 【写真:ロイター/アフロ】
大技4つはまったく同じです。フロントサイドダブルコーク1440、キャブダブルコーク1440、1260を2回(※)。ただ、出し方が違います。
――どのように違うのでしょうか?
平野選手はこの4つを連続でやります。ショーンは4回転、4回転と続けたあとに、フロントサイド540という1回転半の簡単な技を入れることによって、スピードを回復させて1260の連続技に入ります。ショーンはキャブダブル(連続4回転の2回目)の着地で少し減速してしまうので、その状態でも飛べる540を挟むんです。平野選手ともその話はしたことがあって、「ショーンは4連続でできません」という話は聞いていました。結局、ショーンはそれが限界で平昌に臨んできたんです。
――平野選手はその大技4つをすべて連続で成功させました。
報道では「4回転の連続技を決めれば金メダル」という話が多かったのですが、そうではありません。4回転を連続で成功させた上で、2回目の4回転の着地が完ぺきではないと次の3回転半の連続なんてできません。ショーンでもできない。それをやったのに95.25点では、やはり厳しいなと……。
あと、ショーンの4連続の2回目、キャブダブルコーク1440はすごくクリーンに見えましたよね?
――下からはそう見えました。
キレイに見えましたよね。僕も最初はそう思いました。でもスローで見たら違いました。
先ほどグラブの話をしましたが、きれいで長いグラブが入れば完成度が高いと言えます。逆に、グラブできていない場合は完成度も低いわけですから、絶対的に点数は出してはいけません。
しかし、ショーンのキャブダブルコーク1440はグラブをしていなかったんです。これはスローで見れば分かります。誰が見ても分かります。板ではなく、ブーツを触っているだけでした。1つ前のランでミスをした技なので、修正しようという気持ちが何かしらの影響を与えたのでしょう。要は届かなかったのです。
これは結構ありがちなのですが、もっとレベルが低い大会では“つかんだ振り”をする選手もいて、「ブーツグラブ」と呼ばれます。ショーンのあれはまさしくブーツグラブ。今さらの話ですが、誤審でした。
(※スポーツナビ編集部による記載ミスがありました。トリック名は「ダブルコーク1260を2回」ではなく、「1260を2回」でした。訂正し、お詫びします)
板の底面に指をかける「グラブ」。かける位置によって種類が変わる。きれいに決まっているこの写真は予選でのワンシーンだ 【Getty Images】
ブーツグラブだったことはショーン本人が一番分かっているはずです。エッジをつかむ感触がないので、「ヤバい、届いていない」と絶対に分かります。それでも最後まで滑り切ると、両手を上げて派手なガッツポーズを見せました。もしかしたらいつもよりガッツポーズを強めにして「俺は完璧だった」ということをアピールした可能性はありますよね。
スノーボードはそもそも格好良くなくてはいけない、美しさがないと勝てないという価値観の競技です。彼自身もそう思っているはずです。ですが、金メダルを取りたいという気持ちがパフォーマンスを過剰にさせたのかなと思います。五輪だったから緊張していて分からない、記憶にないと言われたらそれまでですが、その瞬間の感覚としては絶対に分かるはず。僕も後から見直して分かったのですが、そういうことを含めると、(平野選手の銀メダルが)とても悔しいです。
平野は自分のスノーボードを貫いた
金メダルは次の北京五輪までお預けとなるが、平野にはスノーボードの格好良さを貫いて欲しい 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
さらに高難度な技に挑戦するしかないのでしょうが、これ以上は危険すぎます。FIS(国際スキー連盟)がこのままオーバーオール(全体の印象での採点)を続けるならば、次はダブルコーク1440をトリプルコークにしなければならないとなって、いつか大変な事故が起きてしまうかもしれません。そうなるとこれ以上は求められないし、求めたくもないです。
現状の持ち技でもスコアを上げる方法はあります。平野選手は、最初に必ず高いストレートエア(回転させず、真っすぐに抜ける技)を入れることにこだわっています。そこを回転技にすれば、もっと金メダルを取りやすいはずなんですよ。
片山來夢選手(バートン)など最初に必ずエアする選手は一定数います。やはりハーフパイプの醍醐味(だいごみ)は高さなので、ぐるぐる回る技ばかりではなく、グラブをしたり自分独自の表現をするという部分に、彼らはすごく重きを置いているのだと思います。でも技の難易度がないと今のFISルールだと勝てないので、平野選手はその代わりに大技を4回つなぐんです。最初はエアだけど、これなら圧倒的でしょうと。
ショーンも2017年12月、W杯カッパーマウンテン大会までは同じようにエアから入っていました。彼は高さにすごくこだわる選手で、今までのハーフパイプ人生はずっとそうだったんです。でもその大会で優勝したのは平野選手でした。話は戻りますが、ショーンは大技を4つはつなげられません。結局、17年12月の時点で「これでは勝てない」と彼は悟ったのだと思います。だから格好良さよりも難易度を優先させて、金メダルを確実に取りにきました。
――平野選手は最初のエアを貫きましたね。
平野選手はスノーボードの格好良さを世界中に発信したいけど、金メダルも妥協せずに狙いにいく滑りです。2人の技の組み合わせは似ていますけれど、背景には対照的な考えがあるんです。勝つことだけ考えたら、という意見もあるかもしれませんが、僕はそのこだわりを貫いてほしいと思います。それがなくなったら、もうスノーボードではなくなってしまうので。今回の結果はスノーボードの格好良さを貫いた結果が評価されなかったわけで、どうなんだろうと僕は思っちゃいます。
とはいえ、銀メダルなので「おめでとう」なんですけれど、素直に言えないです。平野選手は7歳でトリノ五輪を見て、ショーン・ホワイトが金メダルを取る姿にあこがれました。自分もその舞台でショーンに勝って金メダルを取りたいというのが小さい頃に思い描いた夢なんです。次の五輪にショーンが出るかは分かりませんが、23歳で挑む22年北京五輪に金メダルという夢が延長されたと言えるのではないでしょうか。
一番悔しいのは本人です。でも、格好良い滑りだったので本当に良かったと思いますけどね。分かる人には分かるというか、彼自身が伝えたいスノーボードは伝わったと思います。
(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)