同じスケートでも異なる環境と技術 【対談】加藤条治×小塚崇彦 後編

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1人で練習するメリット

加藤は以前から1人で練習をしている。そのメリットとは!? 【坂本清】

――スピードスケートの選手は引退したあと、どういう道に進むのですか?

加藤 普通に社会に戻る人が多いですね。就職先を探して働く。コーチとして残るのは限られた人たちだけです。

小塚 それがフィギュアとスピードスケートの違いでもありますよね。フィギュアは1対1で教えることが多くて、スピードスケートは1つのチームがあり、その中に監督やコーチがいる。だから、フィギュアはコーチがけっこう多いんです。

加藤 スピードスケートは引退したら、コーチをやるにしてもけっこうボランティアに近いです。教えるにしても別の仕事をやりながら掛け持ちする感じです。

――加藤選手は現在1人で練習されていますが、メリットとデメリットはありますか?

加藤 僕にとってはメリットの方が圧倒的に多いです。個人種目だし、自分自身の運動能力は特殊だと思うんです。他の人と比べると体力的に劣っている部分がすごく多いし、一緒に練習しても付いていけないことがほとんどです。付いていけない練習を無理やり一緒にやっても身にならないし、自分なりのぎりぎりのラインをやっていかないといけないのに、上のラインの人たちとやるとそれができなくなる。

小塚 体は正直で、やっぱり自分のペースがありますよね。例えばマックスの力でダッシュ8本のところを15本やると、次の日の練習の質が落ちて、トレーニングにならない。毎日きちんとやっていくことが重要だから、そういう意味では人のペースに合わせるやり方はあまり良くないんです。

加藤 自分のやり方として、本数は決めていなかったりするんです。やりながら常に全力でチャレンジして、「これは8本ぎりぎりいけそうだな」とクリアしたところで、もう1本やって終わりにする。あるいは「8本やろうと思ったけど、危なそうだから7本にしよう」と、自分だけだと微調整をしながら練習できる。それは甘えでやめるというデメリットもあるように感じられますが、自分はほとんどそれがない。基本的に練習が大好きなので、追い込めば追い込むほど、ここでやめたらもったいない、むしろここからが力になると考えると楽しいんです。そういうトレーニングのコントロールを自分でできるのがメリットです。

小塚さんは現役時代、佐藤信夫コーチ(右)にずっと指導を受けていた 【写真:アフロスポーツ】

――小塚さんは、ずっと佐藤信夫コーチと佐藤久美子コーチの指導を受けていました。

小塚 フィギュアスケートはリンクに出ていって、いろいろなことが起きます。ジャンプ、スピン、ステップとさまざまな要素が詰まっているので、不安になりがちです。転倒するかもしれないという気持ちを払拭するために、最後のひと声をかけてもらう。いつも見てもらっているからこそ信頼関係ができて、最後のひと声が効果的になる。もちろん日々の技術の進歩に対しても、自分の鏡になってくれる存在です。

 フィギュアスケートは滑るときにどういう力がかかっているか、どちらの方向にいくか、ジャンプを跳ぶときにどう力を加えるべきなのか、きれいな放物線をどう描くかという研究がなされていない。スピードスケートは滑る方向や力の加わり方、カーブを曲がるときにどう滑ったら効率がいいかなどの研究はされてきていると思います。フィギュアスケートはそういうものがないからこそ、先生の感性に頼る部分が大きい。感性に頼るとなると経験年数が長いほうがいい。僕が最初に指導を受けた先生は信夫先生で、僕のことを知っている先生は信夫先生以上にはいないので、ずっとお願いしていました。

「金メダルを取って偉そうな話をする」

「金メダルを取って偉そうな話ができるように頑張りたい」と、加藤は力強く意気込んだ 【坂本清】

――選手としてレベルを上げるためには、コーチも含めて環境を変えるという選択をする人もいると思います。

小塚 所々で僕もいろいろな先生に習って、新しい風を入れました。やっぱり外の状況は把握していないといけないし、ジャンプも跳び方がどんどん変わっている。僕もいろいろ行かせてもらいましたが、メインとしては信夫先生に付いていったという感じです。

加藤 僕は1人で米国に行きましたね。1人でアパートに住んで、レンタカーを借り、練習も1人で移動する。米国のナショナルチームには混ぜてもらったんですけど、毎日の練習はスケートリンクじゃなくて、どこか遠くの場所で自転車に乗ったりだとか、いろいろなところを行ったり来たりしていました。その連絡も自分で取ってやっていました。自転車に乗ってはぐれて遭難したこともありましたね(笑)。自転車が壊れてヒッチハイクをしたり、車が壊れて助けを求めたり、自分が動かないと生きていけないようなことが米国にいたときはたくさんありました。自分で何かをしなければいけない環境に身を置けたことが、自らの意思で前に進んでいくための大きな経験になったと思います。

――では加藤選手、最後に五輪に向けての意気込みをお願いします。

加藤 五輪はもちろん金メダルを目指してやります。現時点(編注:対談は1月中旬に行われた)の実力としては金メダルの位置にいっていないのですが、ここからどんどんレベルを上げて、レース直前にはしっかり金メダルを取れるところにまで持っていこうと思います。今の精神状態でいうと、「五輪で金メダルを取ります」と猪突猛進でいける感じではないので、そこは冷静に足元を見て、五輪直前に本気で金メダルを取りにいける状態まで持っていくことが先決です。足元を少しずつ固めていって、結果として金メダルを取り、また対談を組んでもらって、そのときは偉そうな話ができるように頑張りたいと思います(笑)。

小塚 ではまた次回、偉そうな話をしてもらいましょう(笑)。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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