松原后は“デュエル”を体現できる左SB 日本代表にこの選手を呼べ!<清水編>

飯竹友彦

静岡ダービーで退場し、涙を流した松原

ハリルジャパンに推薦したい清水の選手は松原后。気持ちの強さが持ち味だ 【(C)J.LEAGUE】

 2016年シーズンにクラブ創立以来初めてのJ2を経験した清水エスパルスは、1年でJ1昇格をつかみ取り、再びサッカー王国を引っ張る存在として期待を受けて17年シーズンを迎えた。そんな中で行われた17年10月14日のJ1第29節ジュビロ磐田戦。4年ぶりにIAIスタジアム日本平で行われた「静岡ダービー」は1万8000人を超えるサポーターがスタンドを埋めた。

 しかし、試合は前半からアウェーの磐田に先制を許す苦しい展開。時計の針は45分を過ぎ、後半に反撃の希望を託そうというそのさなか、事件は起きた。アディショナルタイム、ラフプレーに報復する形で相手を突き飛ばした松原后(こう)が退場処分を受ける。後半、1人少ない清水は劣勢を跳ね返すことができず、さらに失点を重ねて0−3で試合を終えた。

 この敗戦によりリーグ戦では引き分けをひとつ挟んで3連敗、同シーズンのダービー3連敗を記録したチームはシーズン最終戦まで残留を争うこととなる。試合後、サポーターから大きなブーイングを受ける松原は、涙を流しながらも気丈な姿でスタジアムをあいさつして回った。そのシーンは波乱の17年シーズンの中で、とても印象的だったことを覚えている。

 前置きが長くなったが、ハリルジャパンに推薦したい清水の選手には、この松原后の名を挙げたい。

長身で左利き、高精度のクロスとドリブルが武器

高精度のクロスと、サイドを駆け上がるドリブルはチームのストロングポイント 【(C)J.LEAGUE】

 オレンジ(清水)サポーターには周知の情報だが、松原の父はかつて清水でプレーしていた松原真也で、叔父は1996年アトランタ五輪代表の松原良香である。しかし、本人は決してエリート街道を歩んできたわけではない。元々はFWでプレーしており県内では知られた存在ではあったものの、それまで年代別の代表経験もなかった。そのためプロ入り、その先を見据えて高校3年時に自ら志願しDFへ転向した。その後の活躍が多くのスカウトの目に止まり、浜松開誠館高校を卒業した15年に幾つかオファーがあった中で清水を選んだ。

 すると、松原はクラブの期待通り1年目から出場機会を得る。元FWらしい攻撃的なスタイルを前面に押し出し、翌16年は左サイドバック(SB)のポジションをつかみ取ると、レギュラーとして1年を通して活躍した。エースのチョン・テセからも大きな信頼を受けるなど、その左足から放たれる高精度のクロスと、サイドを駆け上がるドリブルはチームのストロングポイントとなっていた。

 182センチという身長に加え左利き。国内を見回しても希少な存在であることは間違いない。日本代表の左SB候補としては170センチの長友佑都、176センチの酒井高徳、ともに178センチの太田宏介と車屋紳太郎らが居る。彼らと比べてももちろんだが、ワールドカップ本大会を戦おうという日本代表にとって、大柄な外国人選手と競り合うセットプレーにおいて180センチを超える松原は攻守で見劣りしない。また、絶え間ないアップダウンに加え、フィジカルの強さと、密集地でガチガチと相手DFを掻き分けながら進むドリブル突破は世界を相手にしても可能性を感じさせる。

ハートの強さはJリーグで抜きん出た存在

ハートの強さが魅力の松原(左)は、ハリルの求める“デュエル”を体現できる選手 【(C)J.LEAGUE】

 ただ、松原をハリルジャパンに推薦する最大の理由は別にある。それは、冒頭に書いたような負けん気の強さだ。相手のラフプレーに報復行為で応戦し、退場したことは決して許されるものではない。しかし、松原の魅力はギラギラとした目とハート、そこにあるといっていい。

 17年3月18日、J1第4節の鹿島アントラーズ戦でも、その一端がうかがえた。この試合は2−3と鹿島に逆転を許したものの、FW鈴木優磨との攻防は見応えがあった。ライン際で肉体と肉体をバチバチとぶつけあう音とともに何度も繰り広げられたバトルは、スタンドのサポーターも「ウォー」と声を上げるほどの迫力だった。同年代の鈴木に対しての強烈なライバル心もあるが、チームとして、個人として、目の前の相手に対する負けたくないという気持ちの強さが垣間見られた瞬間だ。草食系の多い昨今、ハートの強さという意味では、現在のJリーグを見渡しても抜きん出た存在であるのは間違いない。

 その意味では、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の求める“デュエル(球際の競り合い)”を最も体現できる選手であることは間違いない。そして、伸び盛りの21歳。そんな松原だからこそ、ハリルジャパンに強く推薦したい。
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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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