五輪選手のプレッシャー克服法は? 【対談】藤森由香×小塚崇彦 前編

スポーツナビ

「私は歳だから」と言わない

プレッシャーを克服するために、藤森は本を読んで勉強しているという 【坂本清】

――日本を代表してその競技に出るということはプレッシャーにもなると思います。周囲の期待に対する対処法や気分転換法はありますか?

藤森 私はけっこうプレッシャーについて考えると固まってしまうタイプなので、さまざまな本を読んだり、たくさんの人の話を聞いて、それに対応する術(すべ)を独学でいろいろと学んできましたね。やはり「頑張らなきゃ」と思うと力みが出てしまう。たとえばジャンプで力みがもろに出てしまうんですよ。その力みのせいで回転が少し余ってしまったり、抜ける瞬間で足回りが抜けてしまったりして、良いスピンにつなげられなかったりするので、なるべく普段からあまり頑張らないように、自然体の自分でいるように心掛けています。

 大切な大会でケガをした経験もあって、「何で自分はそうなってしまうのだろう」ということを考えたときに、いろいろな本を読んで「もしかして力みがいけないのかも」という結論にたどり着きました。ですので、大切な大会を目の前にしても力まないように、今は意識しています。

小塚 どんな本を読んで勉強しているのですか?

藤森 いろいろな本を読みましたね。イメージを作る本や脳科学の本とか。今は林(成之)先生の“勝負脳”についての本をもう一度読んでいます。いろいろな本の中から自分に合うものをピックアップして、それをいつもの生活の中から取り入れて、競技中に変にあがらないようにしています。プレッシャーをプレッシャーと感じずにやれたらいいなと思っています。

――印象に残っている言葉や、実践していることはありますか?

藤森 そうですね。たとえば私はもう31歳になります。31歳というのはこの競技にとってはけっこう厳しいと思われているのですが、それは誰が決めるわけでもないじゃないですか。そうした中で「私は歳だから」と言わないようにして、「私はたくさんの経験を積んできたからいろいろできるんだ」というふうに、自分にかける言葉を変えたり、夜寝る前に自分に良い言葉をかけるようにしています。

 あとは、たとえば「この技を成功できなかった」と落ち込むのではなく、「だけどここの部分はすごく良かったな」と1つひとつ分解して、小さい経験、成功体験を考えるようにしています。そうすることによって練習をしていても、メンタル的にあまり落ちることがなくなりました。練習自体で落ちていたら意味がないし、うまくなるために練習をしているから失敗をすることは当たり前。その中で良かったこと、成功できた小さいことを喜ぶようにしたいと思っています。

小塚 僕が現役のときに実践していたのは、試合前は部屋をきれいに片付けることでした。当たり前のことだとは思うのですが、部屋を片付けることによって心が整う。部屋と自分の心の中がリンクするというか。だから試合の前はきっちりときれいにして、ベッドメークもしてそこから出ていくようにしていました。たぶんそれは本から影響を受けたと思います。

――実際に効果は?

小塚 あったと思います。やはりそのままバッと出ていったときは何か忘れ物をしていたり、バタバタとして試合がいつの間にか終わってしまうこともありました。とにかくキチキチするようにしましたね。たとえばウォームアップでも、5分間隔でちゃんと時計で計っていろいろとやっていたのですが、緊張しているとそれが少しずつ狂い始めるんですよね。ただ余裕があれば、ちょっとゆっくりしようとか思える。そういうことはありました。

藤森 実際に冷静さがないと、かなり競技には影響はしますよね。ただ、余裕は……。

小塚 ない(笑)。言葉が悪かったですね。落ち着きです。

藤森 そうですね(笑)。

競技種目を転向した理由

ソチ五輪後にスノーボードクロスからスロープスタイル、ビッグエアに転向。年齢のことも考え、決断に至った 【Getty Images】

――藤森選手はソチ五輪後にスノーボードクロスからスロープスタイル、ビッグエアに競技種目を変えましたが、決断に至った理由は何だったのでしょうか?

藤森 スノーボードクロスをやりながら、今の競技も好きでやっていたんですね。ただ大会はなかなか日程的に出ることができなかった。ずっと「やりたい」と思っていたことで、「どうしよう、私もうこんな歳だ。変える? 変えない? それとも両方やる?」と考えていました。実際に両方やるとなると時間もお金もかかるし、かなり大変だと思ったので、どちらかに決めないと、と思って競技を転向しました。

小塚 かなり思い切った決断ですよね。フィギュアスケートで言うと、たぶんシングルをやっていた人がアイスダンスや、ペアに行ったりするような感じなのかなと、今聞いていて思いました。

藤森 たぶんですけれど、スピードスケートからフィギュアにいくような感じです。

小塚 そこまでですか!

藤森 それまではレースでしたし、使う板も違うし、回ったりもするので。

小塚 それは違いますね。確かにフィギュアからスピードに変えることはスケート靴の刃も違う。アイスダンスの選手でもシングルのブレードを使ってやる人が最近はいて、そういう転向をすることは、ある程度可能かなと思いますけど、僕としてはスピードスケートに転向ということは考えられないです(苦笑)。それは思い切った決断ですよね。

競技転向について、藤森から「スピードスケートからフィギュアにいくような感じ」と説明された小塚さんは、その違いに驚いていた 【坂本清】

――スピードスケートを滑ったことはありますか?

小塚 僕はないですね。スピードスケートの靴も履いたことはないです。スピードスケートのリンクで滑ったことはあるのですが、フィギュアの靴で滑りました。なかなかチャレンジする機会もなく終わってしまっています。ちなみにスノーボードもないんです。スキーはあるのですが、どこが楽しいんですか? 聞き方がおかしいですね(笑)。

藤森 確かに(笑)。

小塚 怖いなと思って。両足を拘束されているじゃないですか。フィギュアスケートやスピードスケート、スキーは両足を動かせるけど、スノーボードは両足を拘束された状態でジャンプするので、怖いんじゃないかと。素人みたいな質問ですが。

藤森 両方を拘束されていない方が逆に怖くて。片足を持っていかれたときに「片足はどっちにいくんだろう」とか。股関節や膝がどこかへいってしまいそうになるので、私たちは固定されている方がまだ安心できるんです。

小塚 そうなんだ。そこは競技性の違いですね。

藤森 私も最初はスキーをやっていたのですが、スノーボードに変えたときは難しかったですね。歩きそうになる。でも、今はスキーの方が怖くて全然滑れないです。スケートも1回しかやったことがなくて……。怖かったです。

小塚 僕は今年の冬に五輪競技を全部やってみようかなと思っています。今は札幌に冬季のオリンピックミュージアムがあるんですよ。そこへ行くと画面で体験ができるんですよね。実際にも体験したいと思っています。もちろんそんなにスピードが出ないところじゃないと無理ですけど。

藤森 面白そうですね。

小塚 冬だけではなく、夏の競技も含めて他に何かやっていたことはありますか?

藤森 スケートボードは練習の一環でやっています。

小塚 じゃあ、2020年の東京五輪も狙えますね(笑)。

藤森 いやいや、それは無理かなぁ(笑)。他の競技は全くできないです。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

<後編に続く>

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