なぜ韓国のショートトラックは強いのか? 輝かしい功績も、裏で絶えない負の騒動

李仁守

平昌を直前に不祥事が続出

韓国女子のエースであるシム・ソッキは、五輪を直前に騒動に巻き込まれた 【写真:アフロスポーツ】

 だが、平昌五輪を目前に控え、韓国ショートトラック界には暗雲が立ち込めている。韓国女子のエースであるシム・ソッキが、コーチに暴行を受ける事件が起きたのだ。

 シム・ソッキは、前回のソチ五輪で女子3000メートルリレー(チームパシュート)の金メダルをはじめ、3個のメダルを獲得。韓国では、金メダル候補の筆頭に挙げられる選手だ。

 事件は1月16日に起こった。シム・ソッキは、鎮川(チンチョン)選手村でトレーニング中、休憩時間にコーチに呼び出され、叱責を受ける過程で、手で殴られたという。暴行にショックを受けた彼女は選手村を抜け出し、翌17日に行われたムン・ジェイン大統領との晩さん会も欠席。事件から2日後の18日になって、ようやく選手村に戻った。

 暴行を加えたコーチは、事件を起こした責任を問われ、最も重い処分である「永久除名」を言い渡されている。このコーチは、自らシム・ソッキを発掘し、長年にわたって彼女を指導してきた人物であるだけに、胸が締め付けられる。

 ただ、コーチの暴行そのものよりも韓国で波紋を広げているのは、事件後に韓国スケート連盟がとった対応だ。

 というのも、同連盟は、上述した大統領との晩さん会をシム・ソッキが欠席した際、青瓦台(大統領官邸)に「シム・ソッキはインフルエンザにかかった」と虚偽の報告を行っていたのである。さらには、暴行事件の責任をコーチ1人に押し付け、連盟内部ではいまだに何の処分も下していない。連盟のキム・サンハン会長が謝罪文を発表したが、「再発防止」と「連盟の刷新」を約束するだけで、具体的な対策には言及しなかった。

選手への悪影響は否めない状況

 この暴行事件のみならず、同連盟は最近、スピードスケートのノ・ソンヨンに土壇場で平昌出場権がないことを伝える(※ロシア選手の脱落により、結果的には出場権確保)など、不祥事が絶えないだけに、国内メディアとスケートファンからは批判が高まっている。青瓦台が設置した請願サイトには、「スケート連盟の解体を要求します」といった請願が数多く掲載されているほどだ。

 一連の騒動については、キム・ヒョンギ記者も落胆を隠さない。

「これまでも韓国ショートトラック界では、派閥争いやコーチのセクハラ問題など、騒動が絶えませんでしたが、もう国民は我慢の限界にきています。『こんなに不祥事ばかり起こすぐらいなら、メダルなんていらない』と言う人までいますよ。今後は、ショートトラック界に対する不信感から、競技人口も減っていくかもしれない。韓国は、世界一のショートトラック強国の座を、自ら投げ捨てようとしているのです」

 何よりふびんなのは、平昌を目指して過酷なトレーニングを続けてきた選手たちだ。ただでさえ過敏になりがちなレース直前のタイミングで騒動が勃発しただけに、周囲の雑音が選手のパフォーマンスに影響することは否定できない。

 キム・ヒョンギ記者も、こう続ける。

「今回の騒動によって、選手の士気が落ちてしまうのは避けられません。それだけに、韓国ショートトラックが金メダルを5つ取れる可能性は、五分五分といったところでしょうか。それでも、女子のシム・ソッキやチェ・ミンジョン、男子のイム・ヒョジュンとファン・デホン、ソ・イラなど、世界トップレベルの選手がそろっているのは間違いないので、動揺せずに本来の実力を発揮してもらいたいですね」

 輝かしい功績の裏で、ネガティブな事件も絶えない韓国ショートトラック。平昌五輪では、成績だけでなく、その裏側にも視線が集まる。

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著者プロフィール

1989年12月18日生まれの在日コリアン3世。大学卒業後、出版社勤務を経て、ピッチコミュニケーションズに所属。サッカー、ゴルフ、フィギュアスケートなど韓国のスポーツを幅広くフォローし、『サッカーダイジェストweb』『アジアサッカーキング』『アジアフットボール批評』『女子プロゴルファー 美しさと強さの秘密(TJMOOK)』などに寄稿。ニュースコラムサイト『S−KOREA』の編集にも携わる

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