なぜ韓国のショートトラックは強いのか? 輝かしい功績も、裏で絶えない負の騒動
国に孝行しているショートトラック種目
ソチ五輪では女子3000メートルリレーで優勝するなど、韓国は冬季五輪のショートトラックで計21個の金メダルを獲得している 【写真:ロイター/アフロ】
何しろ、これまで韓国が冬季五輪で獲得した26個の金メダルのうち、21個がショートトラックによるものだ。これは同種目では世界一の記録で、2位の中国(9個)にも2倍以上の差をつけている。それだけに韓国ではショートトラックのことを、国に孝行しているという意味を込めて“ヒョジャ(孝子)種目”と呼ばれているほどだ。
韓国のスポーツ紙『スポーツ・ソウル』でスケート競技を担当しているキム・ヒョンギ記者も、今大会はショートトラックが韓国の鍵を握っていると話す。
「韓国が平昌五輪で目標数のメダルを獲得するためには、ショートトラックが最も重要な種目になります。ショートトラックで5つは金メダルを取らなければ、目標達成は難しいでしょう」
そもそも韓国は、ショートトラックが五輪正式種目に採用された1992年のアルベールビル五輪から存在感を示してきた。
同五輪では、男子1000メートルに出場したキム・ギフンが、韓国にとって冬季五輪史上初めてとなる金メダルを勝ち取っている。韓国は同大会で、男子5000メートルリレーでも表彰台の頂点に立った。
その後の五輪でも、2006年のトリノ五輪では、男子のアン・ヒョンス(現在はロシアに帰化。=ビクトル・アン)と女子のチン・ソンユが3冠を達成するなど、韓国ショートトラックは世界トップレベルの実力を示してきた。五輪の正式種目に採用されてからは、金メダルを逃したことは一度もない。
整った競技環境と過酷なトレーニング
韓国はハード面の環境も整っている。写真は平昌五輪でショートトラック種目が開催される江陵アイスアリーナ 【Getty Images】
例えば、現地メディア『聯合ニュース』が昨年7月にショートトラック韓国代表チームのトレーニングに密着したリポートでは、1日のスケジュールが以下のように明かされていた。
早朝5時に起床し、5時20分からウォーミングアップをスタート。6時から8時まで2時間リンクでトレーニングを行い、午後にも2時間半、リンクを滑る。その後、さらに2時間のウエートトレーニングとランニング。夕食後は自由時間だが、選手たちはこの時間を自主トレに使う。2週に一度は、山登りトレーニングも行われる。
このスケジュールをこなす中で、選手たちは毎日リンクを200周以上回るという。同種目のトラックは一周111.12メートルであることを考えると、毎日22キロ以上を滑走していることになる。韓国選手の無尽蔵のスタミナと爆発的なスピードは、こうした過酷なトレーニングによって培われているわけだ。
もっとも、韓国ショートトラックが強い理由は、これだけではない。キム・ヒョンギ記者はこう分析する。
「次々に良い選手が輩出されていることには、国内の環境も関係しているでしょう。ショートトラックは、他の競技に比べて専用リンクも多く、レベルの高い実業団も少なくありません。つまり、実力を伸ばす機会に恵まれているということです。
そのため韓国では、親が子どもにスケートをさせるとき、フィギュアでもスピードスケートでもなく、当然のようにショートトラックを選ぶんですよ。すると選手数が増えますから、必然的に競争も激しくなりますよね。ライバルがひしめく中で切磋琢磨(せっさたくま)するからこそ、選手のモチベーションも上がるわけです」
整った競技環境と激しい競争、そして過酷なトレーニングによって、韓国は世界一のショートトラック大国となったということだ。