開幕目前の平昌五輪が抱える「不安材料」 防寒対策、チケット、南北合同チーム……

李仁守

世論調査で「競技場での観戦意欲」が低下

平昌五輪のチケット売り場。販売枚数は目標にまだ届いていない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 問題はほかにもある。チケットの売上が苦戦していることだ。1月19日時点での販売数は、目標の69.7%(74万4822枚)にとどまっている。目標数の106万8627枚には30万枚以上不足している状況だ。

 今後、国内でチケットが売れる見通しも暗い。韓国文化体育観光部が1月20日に発表した『第5次平昌冬季五輪および冬季パラリンピック国民世論調査』によれば、「(五輪を)競技場で直接観戦する」と回答した数は、5.1%にすぎず、しかも前回調査(7.1%)から2.0%も減少しているのだ。

 チケットの売上が伸び悩んでいることには、ソン・ジフン記者もため息をつく。
「五輪が成功するためには、開催国の国民が観戦に足を運ぶことが欠かせないのに、こんな状況では大会も盛り上がりません。彼らが現地観戦に消極的な一因には、平昌の寒さもそうですが、会場近辺のホテルや飲食店の価格が暴騰したこともあるでしょう。それでも韓国のメダル獲得が期待されるショートトラックやスピードスケートはまだ関心が高いですが、一度もメダルを獲得したことがないスキーやスノーボードなど雪上の競技は、これからチケットが売れる可能性も低いでしょうね」

突然結成された「南北合同チーム」への反発

急きょ結成された女子アイスホッケー南北合同チーム 【写真は共同】

 開幕を目前に控える中、不安材料が少なくない平昌五輪。だが、いま最も韓国が頭を悩ましているのは、今年1月に急きょ五輪参加が決まった北朝鮮代表団の問題だろう。女子アイスホッケーの南北合同チームが結成され、北朝鮮から高官級の代表団や230人余りの応援団が派遣されることが決まったが、その決定に対する市民の反発が強まっているのである。

 とりわけ女子アイスホッケーの南北合同チーム結成に対しては、若者を中心に不満が噴出している。1月11日に国会議長室と民放局SBSが1000人を対象に実施した世論調査では、全体の72.2%が「無理に合同チームを結成する必要はない」と回答。その中でも、19〜29歳は82.2%、30〜39歳は82.6%が合同チーム結成に反対している。

 ソン・ジフン記者は、こうした市民の反感が大会期間中に思わぬ事態を招く恐れがあると話す。
「これまでスポーツイベントなどで北朝鮮から代表団が来たときは、一部では敵視する人もいましたが、それでも“お客”として歓迎する雰囲気がありました。しかし、いまは“なぜ北朝鮮を呼んだんだ”という反応がほとんどです。特に若者の反感は強い。というのも、韓国では就職難が叫ばれて久しく、若い世代は自分が入りたい企業に入れない状況。そんな彼らの目に、自力で出場権を勝ち取らず、政治的な決定で五輪参加を決めた北朝鮮の選手はどう映るか。“コネ入社した卑怯者”にしか見えないわけですよ。市民たちは感情的になっているだけに、いつ誰が北朝鮮の選手に“帰れ”と罵声を浴びせるか分からない。そうした反発を抑える対策も立てられていないため、五輪期間中に深刻な問題が起きてしまわないかとヒヤヒヤしていますよ」

 要するに、南北合同チームの結成によって、韓国が強調する「平和五輪」の精神がむしろ脅かされようとしているわけだ。なんとも皮肉な話だが、そもそも国民の関心が北朝鮮に集中していること自体も問題だという。ソン・ジフン記者はこう続ける。
「北朝鮮の参加によって、良くも悪くも五輪に対する関心は高まりました。でも、あくまで国民が目を向けているのは“北朝鮮”であって、五輪ではない。大半の人々は北朝鮮の話題で盛り上がっているだけで、五輪にも韓国選手にも興味がありません。こんな状況では、チケットも売れませんよね。北朝鮮のための五輪のようになってしまわないか心配です」

 韓国で史上初めて開かれる冬季五輪は、国民の関心を北朝鮮に奪われたまま本番を迎えようとしている。極寒の平昌に開催国の熱気が渦巻く光景は、果たして見られるのか。

2/2ページ

著者プロフィール

1989年12月18日生まれの在日コリアン3世。大学卒業後、出版社勤務を経て、ピッチコミュニケーションズに所属。サッカー、ゴルフ、フィギュアスケートなど韓国のスポーツを幅広くフォローし、『サッカーダイジェストweb』『アジアサッカーキング』『アジアフットボール批評』『女子プロゴルファー 美しさと強さの秘密(TJMOOK)』などに寄稿。ニュースコラムサイト『S−KOREA』の編集にも携わる

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント