開幕目前の平昌五輪が抱える「不安材料」 防寒対策、チケット、南北合同チーム……

李仁守
 韓国で史上初めて開かれる冬季五輪が、いよいよ9日に開幕する(競技開始は8日)。現地では、国を挙げて進められてきた大会の準備が大詰めを迎えている。昨年末には、ソウルと江陵(カンヌン)を結ぶ高速鉄道KTXが開通。選手村も新設され、大会で使用される12の競技場もすべて完工した。

 ただ、現地記者の話を聞きながらその準備過程を追ってきた立場からすれば、平昌五輪の運営にはまだ不安が残るのも事実だ。

屋根がないメーン会場に低体温症のリスク

開・閉会式が行われるが、屋根がない平昌オリンピックスタジアム(左斜め上は建物部分) 【写真は共同】

 平昌で取材を行っている全国紙『中央日報』のソン・ジフン記者も、現場の状況にもどかしさを感じている。
「いまの準備状況を見る限り、大会が成功する可能性は60%程度です。インフラは整いましたが、安心して本番を迎えられる状況とは到底言えません」

 実際、平昌五輪の不安材料は少なくない。

 1つは、防寒対策だ。平昌五輪組織委員会が1月23日に発表したところによれば、五輪の主な開催地となる平昌郡の大関嶺(テグァルリョン)の2月の平均気温(直近10年間)は、マイナス4.5℃。ただし、これはあくまで平均気温であり、韓国消防庁によれば、五輪開催期間の最低気温はマイナス21℃、体感温度はマイナス31℃にもなるという。家庭用冷凍庫(マイナス18℃以下)に放り込まれるような凍える寒さになるわけだ。

 まして、平昌五輪の開・閉会式が催されるオリンピックスタジアムには屋根がない。予算の削減や大会後の撤去が前提であるため設置しなかったというが、当然、選手や観客たちは雪や風にさらされることになり、低体温症のリスクも上がる。事実、昨年11月4日に同会場で開かれたK−POPコンサート「2017ドリームコンサートin平昌」では、観戦していた10代4人と50代1人が低体温症になって救急車で病院に運ばれていた。

 もちろん、大会側も防寒対策に乗り出しているが、それもあまり当てにならない。組織委員会は、観客席の上段と下段に防風幕を設置。スタジアム内18カ所に暖房が効いた休憩所を設け、40カ所に大型ヒーターを設置し、“防寒6セット”(ポンチョ、ひざ掛け毛布、温熱座布団、ニット帽、手用カイロ、足元カイロ)を観客に無料で配布することなどを発表したが、そうした対策だけで寒さがしのげるかは疑問に思ってしまう。

 それに、雪が降った場合はどうするのか。現地記者が撮影した、同会場のオレンジ色のベンチが雪で真っ白になった写真も見たが、開・閉会式当日にそれ以上の雪が降らないという保証もない。

ボランティアスタッフにも過酷な環境

寒さに耐えながら平昌五輪の準備を行うボランティアスタッフ 【写真:ロイター/アフロ】

 前々回のバンクーバー、前回のソチでは気温が高過ぎると物議を醸していたのに対し、平昌は逆に“寒過ぎる”ことが問題となっているわけだが、その寒さに苦しめられるのは、選手や観客だけではない。現地では、大会の運営に携わるボランティアスタッフも働くのだ。その中には、屋外で入場手続きや交通整理を行うスタッフもいる。

 しかも、彼らはそんな極寒の中で、長時間の労働が課せられる。最大で1日9時間、休日は週に1日のみで、配属先によっては休憩時間も与えられないのだという。彼らが拠点とする宿所も、会場から車で片道40〜50分かかる場所に位置している。

 あまりに過酷な労働環境だが、それだけに、現地記者によれば大会開幕前から「こんな環境ではボランティアはできない」と意気消沈するスタッフも少なくなかったという。振り返れば、14年の仁川アジア大会や昨年のU−20サッカーワールドカップなどでは、ボランティアスタッフのドタキャンが多発して問題となっていたが、こうした発言を聞く限り、今回の五輪でも同じ事態が起きる可能性も否定できないのだ。

 組織委員会は、長期にわたってスタッフの教育を実施し、すっぽかされることを想定して必要数の117%のスタッフを動員しているが、組織委員会関係者も、ボランティアスタッフの管理には不安を隠せない様子だった。
「現場でどんなトラブルが起きるか予測ができません。支給品を受け取ってそのまま現場に現れないということも十分にあり得ますよね。突然スタッフと連絡が取れなくなった場合は、ただただ困惑するしかないです」

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著者プロフィール

1989年12月18日生まれの在日コリアン3世。大学卒業後、出版社勤務を経て、ピッチコミュニケーションズに所属。サッカー、ゴルフ、フィギュアスケートなど韓国のスポーツを幅広くフォローし、『サッカーダイジェストweb』『アジアサッカーキング』『アジアフットボール批評』『女子プロゴルファー 美しさと強さの秘密(TJMOOK)』などに寄稿。ニュースコラムサイト『S−KOREA』の編集にも携わる

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