連載:初めてのセイバーメトリクス講座

投手対打者の1球ごとをデータ化すると? 初めてのセイバーメトリクス講座(7)

カネシゲタカシ

選球眼には定評のある阪神の鳥谷 【写真は共同】

『初めてのセイバーメトリクス講座』の第7回は野球の醍醐味ともいえるホームプレート上についてのあれこれについてお送りします。講師はセイバー研究で知られる統計学者の鳥越規央先生。生徒はわたくし、漫画家のカネシゲタカシです。

細分化されるデータの世界

鳥越:スポーツナビでプロ野球の試合を確認する時に「一球速報」というのがありますよね。

カネシゲ:はい、僕も使っています。どんな球種が、どのコースに行って、どんな結果だったかすぐにわかります。球場でも重宝します。

鳥越:そうですね。ところで「一球速報」があるということは、どういうことか? それは“ホームプレート上のデータを全部残せる”ということを意味します。

カネシゲ:なるほど。バッテリーの配球や、バッターの振った、振らないを?

鳥越:はい、データとして残せるのです。そうやって生まれたセイバーメトリクスを「プレート・ディシプリン」(Plate Discipline)と言います。

カネシゲ:……セイバーはどんどん進化するんですね。OPSで喜んでいた連載第1回が懐かしい(笑)。えーっと、“ぷれーと・でぃしぷりん”。「プレート」はホームプレートのことですね。「ディシプリン」は?
鳥越:「鍛錬」とか「自制心」みたいな意味です。“ホームプレート上の判断”みたいなイメージかな。ちょっと細かいですが見てみましょう。

O-Swing%:ボールゾーンのスイング率
Z-Swing%:ストライクゾーンのスイング率
Swing%:スイング率
O-Contact%:ボールゾーンのコンタクト率
Z-Contact%:ストライクゾーンのコンタクト率
Contact%:コンタクト率
F-Strike%:初球ストライク率
SwStr%:空振り率

カネシゲ:もう文字にして打ち込むだけでも大変だ(笑)。

鳥越:それほど難しくありません。順に説明しましょう。まず、最初の3つ(O-Swing%、Z-Swing%、Swing%)はスイング率です。来た球に対してバッターがスイングした割合ですね。「O」はアウトゾーン、「Z」はストライクゾーンを表します。

カネシゲ:なるほど。O-Swing%ならボール球を振った率ってことですね。じゃあこの数値が高い選手はボール球を振るってこと。つまり“選球眼が悪い”ってことですか?

鳥越:そうとも言えます。逆にZ-Swing%ストライクゾーンのスイング率です。ちなみに「スイング率」なので、バットに当たったかどうかは問いません。それを問うのは、次の3つの指標、「コンタクト率」(O-Contact%、Z-Contact%、Contact%)です。

【イラスト:カネシゲタカシ】

鳥越:たとえばO-Contact%は、「ボールゾーンの球をどれだけバットに当てたか」を表します。逆にZ-Contact%「ストライクゾーンの球をどれだけ当てたか」、という割合を示します。

カネシゲ:ふむふむ、なるほど。

鳥越:そして最後のふたつ。F-strike%「ファースト・ストライク率」、つまり初球のストライク率を表す投手側の指標になります。

カネシゲ:これが高いピッチャーはストライク先行になりやすいってことですね?

鳥越:はい。そして最後のSwStr%「スイング・ストライク率」、これは投手側の指標で見れば、空振りでストライクが取れる率を示します。打者側からすると、空振りする率ですね。主なプレート・ディシプリンはこんなところです。細かくやれば、もっとたくさんあるんですが。

カネシゲ:これでも十分細かいです!

ボール球をもっとも振らなかった打者は?

鳥越:この講座の第3回で「IsoD」というセイバー指標を取り上げました。「出塁率−打率」で、四球が多い人を示す指標です。それはかつて「選球眼の良さ」を示すとされていましたが、強打者で四球をもらいやすい人が有利になってしまう傾向にありました。
カネシゲ:そうでした、それがIsoDの弱点でしたね。

鳥越:でもこのO-Swing%は、ずばりボールゾーンのスイング率なので、これが低い打者は選球眼がいいと言えるわけです。

カネシゲ:ですね。直接的に言えます!

鳥越:ではここからは2017年のデータをもとにクイズをやりましょう。読者の皆さんも考えてみてください。17年シーズン、O-Swing%がもっとも低かった打者は誰だったでしょうか?

カネシゲ:うーん、ボール球を振らない打者だから、四球をよく選んでいる打者ともいえますよね。

鳥越:そうなります。

カネシゲ:鳥谷敬(阪神)あたりの名前が浮かびますが……。

鳥越:それでは答えをどうぞ。

1位:近藤健介(日本ハム) 11.7%
2位:鳥谷敬(阪神) 12.3%
3位:西川遥輝(日本ハム) 17.3%
(100打席以上の打者を対象、データスタジアム調べ)

カネシゲ:鳥谷は2位ですか! その上に序盤に打率4割をキープしていた近藤がくるんですね。

鳥越:そうです、ただ規定打席到達者に限れば鳥谷がトップです。もうずっとなんです、鳥谷のO-Swing%が低いのは。11年以降、ベスト5の常連です。

カネシゲ:“オースイング王”ですね。「O(オー)」と「王」でややこしいけど。

鳥越:ちなみに、逆にO-Swing%が高い人、つまり「ボール球に手を出す人」は誰でしょう?

カネシゲ:うーん、かつては新井貴浩さん(広島)がボールになる外のスライダーを空振りするシーンをよく見ましたが、最近はどうなんだろう。やっぱり外国人の強打者、振っていくタイプじゃないですか? ロペス(横浜DeNA)とか、バレンティン(東京ヤクルト)とか?

鳥越:正解はこうなっています。

1位:オコエ瑠偉(楽天) 45.0%
2位:武田健吾(オリックス) 42.7%
3位:遠藤一星(中日) 41.8%
(100打席以上の打者を対象、データスタジアム調べ)

トップはオコエです。45%も振っています。

カネシゲ:なるほど、経験の少ない若手選手は確かにボール球を振りますね。

鳥越:鳥谷はすでに36歳。ベテランで一般的な視力は衰えてきているかもしれないけれど、若手よりずっと選球眼はいいわけですよ。

カネシゲ:そっかあ。選球眼はセンスや経験が大事ってことが、このランキングからわかりますね。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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