投手対打者の1球ごとをデータ化すると? 初めてのセイバーメトリクス講座(7)
ストライクゾーンを積極的に振っていく打者は?
ソフトバンク・中村がトップの指標とは? 【写真は共同】
カネシゲ:Z-Swing%が高い選手ってことですね? これは勝負が早いとか、そういうことにも関係あるかもしれないな。DeNA・ラミレス監督の現役時代がそういうイメージです。
鳥越:ラミレスさんは選手時代、読みがすごかったですからね。
カネシゲ:いまは誰だろう? ストライクゾーンの球をパーンと勝負に行くのは……ちょっと見当つかないですね。
鳥越: では正解を見てみましょう。こちらです!
1位:倉本寿彦(DeNA) 78.1%
2位:ロペス(DeNA) 76.8%
3位:嶺井博希(DeNA) 76.2%
(100打席以上の打者を対象、データスタジアム調べ)
カネシゲ: わぁ、倉本が1番なんですね! ていうかDeNAがトップ3を独占。チーム方針で「振っていけ」みたいなのがあるのかな?
鳥越:倉本はガンガン振っていくタイプですね。
カネシゲ:それでチームが躍進したわけだから、ガンガン振るのも悪いことじゃないのかもしれないな。
鳥越:しかしボールゾーンは見逃して四球を増やして出塁率を上げるという手もありますよね。阪神がまさにそう。糸井嘉男、福留孝介、そして鳥谷の出塁率の高さには定評がありますから。
ミート力のある打者、ナンバーワンは?
鳥越:では今度はContact%、コンタクト率に関する問題です。バットに当てる技術がナンバーワンだった打者は誰でしょう?
カネシゲ:これはゲームの「パワプロ」でいったらミートカーソルがでっかい選手のイメージですね?
鳥越:そうそう、そういうことです(笑)
カネシゲ:やはり首位打者を獲得した宮崎敏郎(DeNA)や秋山翔吾(埼玉西武)じゃないですか?
鳥越:残念、もっとミートがうまい選手がいるんですよ。正解はこちら!
1位:中村晃(ソフトバンク) 92.9%
2位:荻野貴司(ロッテ) 91.1%
3位:銀次(楽天) 89.9%
(100打席以上の打者を対象、データスタジアム調べ)
カネシゲ:福岡ソフトバンクの中村晃! バットに当てる技術が卓越していると。
鳥越:100回バットを振ると93回はボールに当てるということです。
カネシゲ:それはすごい! そして千葉ロッテの荻野貴司が2位ですか。
鳥越:90%以上です。バットに当てる技術が高い選手は、ファウルも多いということ。2ストライクと追い込んでも、なかなか空振り三振が取れないバッターですよ。
カネシゲ:“いぶし銀”タイプですね。きわどい球はカットする、投手から見ると、いやらしいバッターですね。
ストライクを投げる割合、ナンバーワン投手は?
カネシゲ:どんどん真ん中に投げて勝負するのは、外国人投手のイメージですね。マイコラス(巨人)とか、サファテ(ソフトバンク)とか?
鳥越:サファテはフォークボールが決め球ですが、それはボールゾーンになりますよ。
カネシゲ:あ、そうか! うーん難しい。正解を教えてください。
鳥越:こちらです。
1位:牧田和久(西武) 56.8%
2位:山中浩史(ヤクルト) 55.3%
3位:有吉優樹(ロッテ) 54.9%
(50投球回以上の投手を対象、データスタジアム調べ)
というわけで、牧田がトップです。16年までと比べて改善しましたね。これまでは与死球ランキング上位の常連だったのが、17年はたったの3つでしたから。(14年は12死球でリーグ最多、15年は11死球、16年は10死球)
カネシゲ:牧田さんはメジャー移籍を視野に入れて、投球スタイルを変えたんですかね?
鳥越:おそらくそうでしょう。ちなみにランキングを見るとわかりますが、投手って半分くらいしかストライクを投げていないんですよね。ちなみにストライクの割合が一番低いピッチャーは伊藤準規(中日)の41.4%です。続いてドリス(阪神)の41.6%(50投球回以上の投手を対象、データスタジアム調べ)。
カネシゲ:フォークとか、逃げるスライダーとか、ボール球で勝負しているってことですね。
鳥越:そうなりますね。
空振りを奪ったピッチャー、ナンバーワンは?
カネシゲ:もうそれはサファテですよ!
鳥越:はい。
1位:サファテ(ソフトバンク) 22.0%
2位:ドリス(阪神) 21.5%
3位:松井裕樹(楽天) 18.0%
(50投球回以上の投手を対象、データスタジアム調べ)
正解です! ご覧のように、みんなリリーフ投手です。いま、空振りが取れる投手は救援を任されることが多いのはご存知の通り。
カネシゲ:逆に一番空振りが取れていないピッチャーって誰ですか?
鳥越:ええと、西武・シュリッター(4.8%)ですね。そしてヤクルト・山中浩史(5.4%)、中日・バルデス(5.7%)と続きます(50投球回以上の投手を対象、データスタジアム調べ)。でも空振りが取れないからダメとは一概に言えません。“打たせて取る”スタイルの投手もいますから。
カネシゲ:なるほど。このセイバーの数値から、その投手の投球スタイルもわかりますね。
初球でストライクを取りに来るピッチャー、ナンバーワンは?
カネシゲ:細かすぎて全然わかりません(笑)。正解を教えてください。
鳥越:こちらです。
1位:山中浩史(ヤクルト) 71.1%
2位:マイコラス(巨人) 70.7%
3位:三上朋也(DeNA) 68.2%
(50投球回以上の投手を対象、データスタジアム調べ)
カネシゲ:アンダースローの山中。初球からどんどん勝負してくるってことですね。
鳥越:そうなります。ランキング的には先程の「ストライクゾーン率が高い人」と被る部分が多くなります。早くからストライクで勝負すると、投手自身を助けます。ノーストライクよりワンストライク、ワンストライクよりツーストライクのほうが断然投手は有利ですから。
カネシゲ:なるほど、勉強になりました。これがプレート・ディシプリンの世界か。じつに細かいですね。
鳥越:いやいや、もっと細かい指標もとれるんですよ。例えば「初球のカーブに対するスイング率」とか。プロの現場ではそういうデータも生かした駆け引きが日々行われています。
カネシゲ:細かすぎてついていけない! キャッチャーが一人前に育つのに時間がかかる理由がよくわかりました。
江戸川大学客員教授。「セイバーメトリクス」の日本での第一人者である。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ、「AKBペナントレース」の得点換算方法の開発など、エンターテインメント業界でも活躍中。JAPAN MENSA会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。