東京2020へ覚悟語った日本の若きエース 車いすバスケのレジェンドと特別鼎談
古澤がアンダーソンに直撃「世界で戦うには?」
アンダーソンのプレーを動画サイトなどで見ていると話す鳥海(右)。古澤も積極的に質問して、世界で戦う心得を聞いていた 【スポーツナビ】
アンダーソン 周りからは考えているように見えるかもしれないけれど、どちらかというと瞬時に判断している。瞬間、瞬間、どんどんリアクトしていくんだよ。長身という特権で、リアクションを速くできる。2ステップ先を考えている選手はいるが、その人たちと自分を比べた分析は、まあ、秘密にしておこうか。そう周りの人が思っているのであれば、そのイメージのままにしておくのもいいかな。
――瞬間ごとに、例えば、今はパスを出すべきなのか、シュートを打つべきなのか。そういう判断を常にしているわけですね。その決定は何を拠り所にしているのでしょう。
アンダーソン いつもシュートだよ! もちろんそれはチームの状況にもよる。若い時には、シュートしすぎではないかとか、考えすぎるきらいがあった。年齢を重ねるごとにシュートチャンスがあれば、瞬時に、アグレッシブに打ちにいくようになってきた。自分がそういうアグレッシブな動きをすることで、相手のディフェンスが変わる。ディフェンスがズレ始めると、そこにスペースができて、さらにチャンスが生まれる。08年の決勝の映像を見ると、当時の自分に「何やってんだ、シュートしろよ!」とツッコミを入れたくなる。あの頃はすぐに決断できずに躊躇(ちゅうちょ)してしまうことが多かったんだ。でも、これは、まだまだ若い君たちに言うべきことではないかな(笑)。
古澤 ぜひお聞きしたいことがあるんです。僕らは身長がパトリックさんのように高くはない。そんな選手が世界でどこまでやっていけるのか、どう戦えばいいと思いますか。
アンダーソン スティーブ・セリオっていうアメリカの選手を知っている?
鳥海 あ、知っています。パトリックさんと一緒にニューヨーク・ローリンニックスでプレーしている選手ですよね?
アンダーソン そうだよ。彼は3.5クラス(編集注:選手は障害の状態により1.0〜4.5までクラス分けがある。アンダーソンは障がいの軽い4.5、鳥海は2.5、古澤は3.0)の選手で、決して長身ではないけど、彼を見れば、選手はどこまで進化できるかということが分かる。1オン1をやっても僕を抜いてシュートするし、そもそも、彼は30センチでプレーを考えるのではなく、1センチ単位でプレーするんだ。
鳥海 よく「YouTube」でプレーを拝見しています。僕は、健常のバスケをする兄の姿を見て車いすバスケを始めたんですが、健常のバスケって、実は動いていない時間帯、プレーが時々あると思うんです。車いすバスケでも国内の大会ではシュートの時など、一瞬動きが止まる。でも、パトリックさんのプレーを動画で見ると、流れるようなプレーでパスも動きながら正確に出している。こちらが動いていると相手もそれにつられて動くので、動きの中で正確にプレーできれば確実に優位に進められますよね。パトリックさんのプレーは素晴らしいお手本です。リードパスも、ポジション取りも、相手との距離感を測りながらプレーするというのは、今の日本には、まだまだ足りない部分なのかな、と。
イベントでは、1オン1、2オン2のゲーム形式のデモンストレーションも行われ、古澤(写真左)や鳥海との激しいマッチアップを見せたアンダーソン 【スポーツナビ】
古澤 大学3年で21歳です。
鳥海 僕は18歳です。
アンダーソン じゃあ、6月にカナダのトロントで行われたU23世界選手権に出場したんだね?
古澤・鳥海 はい!
古澤 オーストラリアとの3位決定戦で負けてしまいましたが。
アンダーソン そうか。オーストラリアはどうだった? あのチームにはトム・オニールソンがいるよね? 彼が良かったのか、それともチーム全体が良かったのか?
――トム・オニールソン選手は、8月に日本で行われた4カ国対抗のワールドチャレンジカップでも活躍してオーストラリア優勝に貢献した選手ですね。
鳥海 そうです。トムはすごく良かったですね。ただ、リオパラリンピック前年のアジアオセアニア選手権の時に、ほとんどコートに入らなかった選手が、世界選手権に出場していて、その選手にやられたところがありました。
アンダーソン つまり、データ不足だったわけだ。
古澤 トムとの連携がとても良くて、後半大逆転されてしまいました。
アンダーソン 僕はU23の時に日本とカナダの準々決勝を見たんだけど、すごいプレスをかけ続けていたと思う。日本は良いプレーをしているという印象を持ったよ。
古澤・鳥海 ありがとうございます!
誓った東京パラリンピックでの再会
アンダーソン 決勝戦で日本と対戦して、やっつけることだよ!
鳥海 僕は初めて出場したリオパラリンピックで9位でした。今は東京での優勝を目指してトレーニングを続けています。世界の強豪国を倒すレベルにならないといけないし、自分自身のスキルをしっかり上げていかなくちゃいけない。あと1000日。寿命が縮まるくらい練習しないと、という覚悟です!
古澤 東京パラリンピックを経験できるのは、すごいこと。まずはそのメンバーに選ばれるように。1日1日を大切に過ごして、最後にカナダと対戦する。うーん、勝負については未知数ですけど、僕は負けず嫌いだから勝ちたいです!
アンダーソン そうこなくっちゃ! いい覚悟だね!
――若い日本の2人に、アドバイスがあれば。
アンダーソン 他の選手をガードして、僕のことはほっといてくれ!(一同爆笑)
――ありがとうございました。