8強で姿を消した「小嶺さんのチーム」 72歳・指揮官のエネルギーは衰え知らず

川端暁彦

敗因を「力不足」と端的に答えた小嶺監督

敗因を問われば「力不足」と端的に答えた長崎総科大附の小嶺忠敏監督 【写真は共同】

 記者から良かった点を聞かれれば「負けたのだから何もないよ」と一笑に付し、敗因を問われれば「力不足」と端的に答える。長崎総科大附(長崎)を率いる小嶺忠敏監督は、1月5日に行われた第96回全国高校サッカー選手権大会の準々決勝で流通経済大柏(千葉)に敗れたあとも、普段と変わらぬ様子を貫いた。

 もちろん悔しくなかったはずはない。この日はセレッソ大阪入りの決まっている絶対的エースのFW安藤瑞季が出場停止。「たら・れば」を言いたくなるシチュエーションだったのは間違いない。だが、記者から問われるまでそれに言及することはなく、いざ問われても「(安藤がいれば)試合の流れは少々変わったのかもしれないけれど、それだけ選手層が薄かったということ」と断じるのみ。洒脱な冗談を交えて笑いもとりながら、しかし選手に対して甘い言葉は漏らさなかった。「負けたのだから」ということだろう。

 昨年6月、72歳になった小嶺監督だが、そのエネルギーに衰えは感じられない。「子供たちがせっかく自分のところに来てくれているわけですから」と責任を負いながら、祖父と孫のような年齢差のある選手たちと正面から向き合ってきた。15年、総監督から監督となって完全に現場へ復帰すると、寮にまで泊まりながら、「指導者がサボれば、選手もサボるようになる。彼らは絶対に指導者のことを見ていますから」と言って毎日の朝練にも顔を出し、精力的に指導に当たってきた。

 小嶺「監督」の誕生によって「空気が変わった」とは田中純平主将の言葉で、実際にチームの成績も非常に分かりやすく上向いた。九州でタイトルを勝ち取れるようになり、強豪ひしめくプリンスリーグ九州でも昨年度は優勝、今年度は準優勝と確かな結果を出している。

 ただ、国見で幾多の栄冠をつかんだ当時の指導とまったく同じアプローチをしているわけではない。かつてを知る人は口をそろえて「柔らかくなった」と言う。「時代も違うし、何より親が違いますから」と口癖のように強調し、「指導法も変えていかないといけない」と、指導に臨む姿勢や信念は変えずとも、その方法論については今も試行錯誤を重ねている。「(指導歴が)何十年経ったとしても、チャレンジしないといけないといけないのは、そういうこと」というわけだ。

適材適所を見極めながら、弱みを補い合うチームに

今季の長崎総科大附(えんじと黄)は特長のある選手を組み合わせながら、個々の弱みをうまく補い合うチームだった 【写真は共同】

 国見の全盛期と比べれば、集まってきている選手のレベルがそこまで高くないのは小嶺監督も認めるとおりで、ひとつの事実ではある。ただ、そこまで“うまい”選手がいない中でも適材適所を見極めながら、しっかり選手個々のクオリティーも3年間で上げてきたのは間違いない。

 今季のチームは、実のところ昨季のチームよりも個々のタレント性では落ちると評価されていた学年だったが、「とにかくマークだけ強い」「カバーリングのセンスは神業」「ロングスローは天下一品」「キックの質は最高クラス」「ヘディングなら全国トップレベル」といった特長のある選手を組み合わせながら、個々の弱みをうまく補い合うチームに仕上げられていた。

「小嶺さんのチーム」と言えば、規律正しく整然とした、いつも静かな軍隊のようなチームを想像する人も多いようだが、実際の彼らは笑顔たっぷりでリラックスした雰囲気のときが多いチームになっていたのも印象的だった。厳しいトレーニングと和やかなオフの中で培われた団結力が、前年度王者の青森山田もいた最激戦区を抜けて8強まで勝ち残ってきた原動力だったのは間違いない。

小嶺監督が見せた“これから”への熱意

 安藤もこの苦楽を共にした仲間たちについては「ホントに最高っす」と即座の“快答”を返し、田中主将も「この3年間、キツいことが何度もあって、折れそうになったことも何度もあったけれど、仲間の存在に支えられてきた。本当に感謝しかない」とした上で、「小嶺先生の指導を受けながら、みんなとこんなに濃い3年間を過ごせたことは、これからの人生にとっても間違いなくプラスになると思う」と“これから”についても思いを寄せた。

 一方、小嶺監督もまた“これから”への熱意を隠さない。来年度のことを問われれば「どうなるか分からないよ」とうそぶきつつも、「(下級生で出場していた選手が少なく)ゼロからのスタートになりますから、どういう目標を立てて、どういう練習をしていくのか」と早くも思案を巡らせている様子で、「ここに来てくれたこいつらをキチッと伸ばしていかないといけない」と下級生たちを鍛え、また選手権へ帰ってくる熱意をのぞかせた。

 小嶺監督は、勝者となった流経大柏の本田裕一郎監督が「ずっと私が背中を追いかけてきた人ですから」とあらためてリスペクトを示した情熱の塊のような指導者であり、教育者。来季もまた、古くて新しい指導によって磨き抜かれた「小嶺さんのチーム」が見られることを、楽しみにしておきたい。
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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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