前年の雪辱を果たした富山第一の大竹将吾 「有言実行」のATゴールで東福岡を撃破

川端暁彦

1年前は“観客”として等々力競技場に

後半アディショナルタイムにゴールを奪った大竹(中央)。等々力競技場のことを「鮮明に覚えていた」と言う 【写真は共同】

 等々力陸上競技場のことを富山第一(富山)のFW大竹将吾は「鮮明に覚えていた」と言う。前年度の高校サッカー選手権、大竹は試合当日のロッカールームで「ベンチ外」の宣告を受け、ピッチではなくスタンドでチームの敗退を見守ることになった。忘れようにも忘れがたい記憶――。今年度の選手権の会場が1回戦から再び等々力となったことで、いやが上にも、その思い出を刺激されることとなった。

 前年度の選手権県予選において、大竹はヒーローだった。0−2のスコアで後半20分が過ぎる絶体絶命の状況だった準決勝の富山東戦で、大竹が1ゴール2アシストの大活躍を見せて逆転。ゴールは決勝点で、まさにチームを救う働きぶりだった。

 だが、その後に足首を捻挫したこともあって、復帰してからはなかなかコンディションが回復しない。「直前の合宿になっても、なかなか調子が上がらなかった」(大竹)。そんなFWの状態に悩みつつも、それでも選手権の初戦となった2回戦で大塚一朗監督は大竹を交代出場という形でピッチに送り出した。しかし、「最後のチャンスだぞ」という言葉を掛けられて送り出された大竹のプレーは「場の雰囲気にプレッシャーも感じていた」中で振るわない。指揮官は3回戦を前にして非情の決断を下すこととなった。

「自分のプレーができていなくて、覚悟はしていました。でも、少しでも期待していた自分がいた。いざ試合当日のミーティングで『外れる』と言われたときに、悔しい思いが出てきて(涙が)こぼれてしまった」(大竹)

 スタンドから見守る敗勢の試合は「悔しさしかなかった」(大竹)。先輩たちが夢破れて崩れ落ちる光景を“観客”として目撃することとなる痛恨。「大事なときにチームの力になれない」つらさを強くかみ締めながら、「この悔しさを晴らすために死ぬ気でやらないといけないと思った」という。

公式戦でゴールを量産した大竹、坪井の2トップ

 元より大塚監督は大竹を「上背があるし、シュートの威力もある。頭も良いし、すごく真面目な子」と高く評価しており、だからこそ大事な場面で起用してきた。新チームについてはJ2徳島ヴォルティスへの加入が内定した坪井清志郎との2トップを軸にしたサッカーを構想し、5−3−2のフォーメーションを採用したのも、「あの2人がいるから」だと言う。人数をかけた守備から強力2トップを生かす狙いを持ってチームを作ってきた。

 大竹と坪井の2トップは実際にその起用に応え、今季公式戦で2人で次から次へとゴールを揺らしてきた。「あの2人が助け合って、競り合ってやってくれた」(大塚監督)。県予選ではJ入り内定で注目が集まる坪井の17得点を上回り、5試合20得点で得点王に輝いた。準決勝でハットトリック、決勝で2得点と肝心なところで決める勝負強さも健在だった。

「キヨ(坪井)とは試合になれば当然コミュニケーションを取って助け合いますが、練習からライバル関係でやってきた。競い合ってきたおかげで、お互いに成長できたと思う。1回戦でキヨが決めたのは刺激になりましたし、『次は自分だ』というのはありました」(大竹)

ATの一撃で優勝候補の一角、東福岡に勝利

マークの外れた一瞬を見逃さなかった大竹。チームを3回戦に導くゴールを奪った 【写真は共同】

 迎えた1月2日の2回戦、相手は前々年度王者にして今大会も優勝候補の一角に挙がる東福岡(福岡)。相手の守備陣にはU−18日本代表DFで、J2ファジアーノ岡山への加入が内定している阿部海大もいた。意識しなかったと言えば、うそになる。

「自分も(代表やJリーグ入りを)目指している中で、そういう場所にいる選手とやり合えることに感謝していました。自分のプレーをしたいし、負けたくないというのもあった」

 後半アディショナルタイムに至るまでは、東福岡守備陣に軍配の上がる試合内容だろう。“東福岡対策”として採用したシステムの関係から、攻撃時に「いつもより距離が開いている」(大竹)2トップが互いに孤立することも多い中で苦しんだ面もあった。だが、最後の最後にチャンスが巡ってくる。等々力の地で一度地獄を見ている男は、その瞬間をしっかり待っていた。

「最後の1分1秒まで諦めずにいこうと思っていた。前の試合(桐蔭学園と一条の同会場での第1試合)も後半ロスタイムで同点になっていた。『諦めないことが勝利につながる』と前の試合を見て感じていた」(大竹)

 アディショナルタイム、恐らくラストプレーと誰もが思ったCKのチャンス。大竹は「練習から何度も合わせてきたので、あいつのタイミングは分かっていた」とキッカーの小森颯が助走に入ったタイミングでスッと動き出す。マーカーの阿部の近くにあえて立っていたというポジショニングから、ニアサイドにいる東福岡のストーン役(マンツーマンディフェンスの中で、マーカーを持たずにニアサイドの危険地帯に構える選手)の選手の前へと瞬発的に入り込んでハイジャンプ。ストーン役の選手がマーカーの阿部の進路を阻む格好となり、一瞬だけだが大竹のマーカーはいなくなっていた。

「1センチでも高く跳ぼうと精いっぱいジャンプした。(動き出しで)フェイクを入れると予想されると思ったので瞬発的なところだけで、タイミングに合わせて一瞬を狙っていた」(大竹)

 伸ばした頭に当たったボールは絶妙のコースへと飛び、東福岡のゴールネットを揺らす。喜びを爆発させる富山第一イレブンの先頭には、1年前に同じスタジアムのスタンドで屈辱と悔恨の涙を流した男がいた。「チームが苦しい中で点を取れる選手になりたい」と言ってきた男が有言実行となるゴールを記録し、チームを3回戦へと導いてみせた。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント