「東洋カラー」が青学大をねじ伏せた 駒大OB神屋氏が箱根駅伝往路を解説
4年ぶりの往路優勝を飾った東洋大 【赤坂直人/スポーツナビ】
昨年と比較し速いペースで進んだ1区。勝負どころとされる六郷橋で東洋大の1年生、西山和弥が抜け出して区間賞獲得の快走を見せる。東洋大は1区で14秒得たリードを、エースが集う“花の2区”でも22秒差に広げると、3区では山本修二(3年)が区間賞、続く4区でも吉川洋次が区間2位と好走。山上りの5区では1年生・田中龍誠が青山学院大・竹石尚人(2年)に猛追を受けるが、4区までのリードが物を言い、鶴見中継所(1区ゴール地点)から1度もトップを明け渡すことなく逃げ切りで4年ぶりの往路優勝を決めた。
3連覇中の王者・青山学院大は、3区に配置したダブルエースの1人、田村和希(4年)が一時東洋大に8秒差まで詰め寄るものの、後半に失速。4区の梶谷瑠哉も差を広げられ、5区で竹石が足を痛めながら好走を見せるも、36秒届かなかった。
3位には5区で2つ順位を上げた早稲田大がトップから1分56秒差で入り、拓殖大が4位と健闘。5位には、5区山上りで9人抜きを見せた青木涼真(2年)の快走もあり、法政大が入った。
復路は3日8時に芦ノ湖をスタートする。総合4連覇へ逆転を狙う青山学院大は、6区に主力の小野田勇次(3年)をエントリーしているほか、ダブルエースの1人・下田裕太が補欠に控えており、当日のエントリー変更での起用が濃厚。東洋大が逃げ切るか、王者・青山学院大が追い上げるか。好位置につける早稲田大にも可能性がある。
往路の勝敗を決めたポイントや復路への展望などについて、駒澤大の元エースで、現在はランニングアドバイザーとして活動する神屋伸行氏に話を聞いた。
ミス無し青学大を東洋大が上回った
今年も青山学院大はミスをしていないと思います。もちろん5区の竹石選手が足をつったりなどはありましたが、それでもタイムは全然悪くありません。それよりも、東洋大が青山学院大より一枚上をずっと行き続けただけ、という感じがしますね。
東洋大はとにかく最初からずっと速かったです。追いつけるようなスキが全くなかった。平地の1〜4区は攻めに攻めぬき、しかも失敗もなかったので、他校が力を発揮してもなかなか難しかったのではないかなと思います。
東洋大が一番力を発揮するのは先頭を走っている時です。また青山学院大も同じように先頭を走っている時に強いチームに見えます。なので、この2校はどちらが自分の武器を出せるかが大事。そこで主導権を握ったのが今年は東洋大だったということです。
――1区からレースを振り返ると、六郷橋の手前でまず仕掛けたのは青山学院大の鈴木(塁人/2年)選手でした。
彼は他の選手の動きを気にしていたので、周りの余力を確かめて仕掛けどころを探る意味で、自分のペースを上げたのだと思います。
(結果抜け出せず吸収されたが)ある程度予定通りでしょう。区間賞を獲得した東洋大の1年生、西山選手の走りが予想以上でした。ユニバーシアード王者の駒澤大・片西(景/3年)選手が16秒遅れての3位、鈴木選手はその片西選手と9秒差です。西山選手の出来が良かったため25秒差の5位になりましたけど、狙いとしては悪くなかったのではないでしょうか。
――“花の2区”では、東洋大の相澤(晃/2年)選手が2位との差を22秒に広げました。
追い風の影響もあったのか、結果的には1時間7分台が5人と過去にないほど多く出たように、かなりのハイペースとなりました。そのなかで東洋大としては相澤選手の走り(区間3位)が流れをしっかりと作りましたね。
ずっと先頭で後ろの状況が分からないなかで、あれだけのハイペースで押していくのには勇気がいります。そこのなかで酒井(俊幸)監督が監督車から「順調、順調!」とずっと言っていました。相澤選手は「酒井さんがいけると言ってくれているから、いける」と信じていけたのが大きかったのではないでしょうか。
酒井監督は全日本大学駅伝の時もそうですが、最初からずっと一貫して攻めています。強い東洋大をずっと維持してきたのは、設定ペースに対してどれだけ押していくかという「1秒を削り出せ」との考え方です。他校がどうのというよりも、自分たちのレースに徹する。設定したペースを超えるんだ、というのが往路全体から伝わってきました。
得意の先頭を快走し4年ぶりの往路優勝を果たした東洋大 【赤坂直人/スポーツナビ】
キーポイントとなったのは3区だと思います。去年、青山学院大は3区の秋山雄飛選手で先頭に立って、そのまま独走態勢に持ち込みました。同じように今年は3区に田村選手を配置しました。ここで絶対逆転する、という見込みですよね。そこを山本くんがかわしきったところが大きかったです。(一時8秒差に迫るも、終盤に失速した)田村選手が失敗したというよりも、山本選手が良かったですね。
――4区でも東洋大・吉川選手が区間2位の好走で後続を突き放しました。
青山学院大の梶谷選手は先頭か、もしくは競ってくるイメージで(たすきを)待っていたと思います。それが3区で東洋大の山本選手が突き放して、4区でも吉川選手がそのままスッと先にいってしまいました。
3区で山本選手がタイム差を広げ、吉川選手も序盤から押して入る先制パンチを出していたので、あれだと追うのはなかなか難しいです。こうなるともう追うという状態ではなく、何とか自分の力を出し切って5区につなぐという意識でやっていたと思います。
――最後の5区山上りでは、2分3秒あった差が36秒にまで詰まるも、東洋大が逃げ切りました。青山学院大に逆転の可能性はあったのでしょうか?
(東洋大は)唯一5区の田中選手だけが安全運転でいった感じです。(青山学院大の竹石選手の)「足がつらなければ」とも言えるのかもしれませんが、下りで競ったとしても東洋大・田中選手に足が残っていたかもしれませんし、田中選手はそのような追いつかれても対応できるように、という作戦だったような気もします。
二段構え、三段構えで作戦を立てていたのではないかなという印象が、東洋大からはずっとあります。
――東洋大の作戦勝ちということでしょうか?
今回のレースだけでうんぬんというよりも、日頃から「1秒を削り出せ」のスローガンの下、ここまで徹底して作り上げてきたものが出たのが今日だったのだと思います。
今回、東洋大は1年生がすごく多いんです。通常1年生というとチームカラーに染まっていなくて、普通のチームだとまだ試していくような段階だと思います。それが1年生の西山選手(1区)、吉川選手(4区)、田中選手(5区)、また2区の相澤選手も2年生ですが初めての箱根駅伝のなか、十分に各選手が“東洋カラー”という雰囲気を持っていました。
酒井監督が就任されて以降、一体感というか、1秒を削り出すために前を向くひたむきさがすごく伝わり、「東洋大としてこういう駅伝をやるんだ」という、しっかりとした哲学を感じます。通常はライバルとの駆け引きがどうしてもあると思うのですが、東洋大はずっと自分たちの戦いに徹している印象です。