井上尚弥、スーパーフライ級で有終の美 バンタム級転向で「ヒリヒリする」試合を
「自分自身、全然物足りない」
WBO世界スーパーフライ級王座は井上尚弥が3ラウンド1分40秒TKOの圧勝 【赤坂直人/スポーツナビ】
プロボクシングWBO世界スーパーフライ級王座戦が30日に神奈川・横浜文化体育館で行われ、王者の井上尚弥(大橋)は、同級6位の挑戦者ヨハン・ボワイヨ(フランス)を3ラウンド1分40秒TKOで下し、7度目の防衛に成功した。
リング上で勝利者インタビューを受けた井上は、1つ上のバンタム級に転向する意思をあらためて表明した。
「自分自身、全然物足りないところがある。スーパーフライ級では実現できないのかなという思いもあるので、来年、バンタム級に行きたいなと思います。WBOのバンタム級はテテ選手(※後述)が王者ですし、WBCは山中(慎介=帝拳)さんが再戦しますし、いろいろ選択肢が面白くなってくる中、自分もそういう世界に飛び込んでいける楽しみがある」
1ラウンド要らずに距離をつかみ圧勝
左ボディで止めをさし、逃げ回る挑戦者をし止めた 【赤坂直人/スポーツナビ】
井上は「本当は、1ラウンドで距離をつかもうと思っていたんですけど、1ラウンドも要らなかったですね」と、つまらなそうに話した。ガードを高く上げて距離を詰め、左のボディフックを打ち込んだ。続けてワンツーを放つ。スピードと迫力に、会場がどよめく。まだ1ラウンドだ。挑戦者も上下にコンビネーションを返す。しかし、どよめかない。結果が見えた。3階席の観客が「もうちょっと見たいな」と言った瞬間、井上の左フックがカウンターで直撃し、挑戦者が倒れた。
明らかにレベルが違った。挑戦者が踏ん張って試合は続いたが、3ラウンドに入ると、井上はステップをほとんど踏まずに距離を詰め、間合いに入った相手を左ボディフックで倒した。さらに、走って逃げ回る挑戦者をロープに追い詰め、再び左ボディでダウン。TKO勝利を告げるゴングが鳴り、観客は「強過ぎるよ」と苦笑いを浮かべて席を立った。敗れた挑戦者は、ダウンから立ち上がったときにも、会場を去るときも、拍手を受けていた。観客も両者の力量差をハッキリと感じていた。
わずかに腫れた右目上は「ものもらい」。井上に傷をつけたのは、これだけだ。井上は、冷めていた。
「物足りなさ……、こういう言い方をしたら、試合を受けてくれた相手に失礼ですけど、もっとヒリヒリする試合がしたいです。喜べないというか、そういう感覚ですよね。ここで大はしゃぎをしているようでは先が見えない。一つの試合をクリアした喜びはありますけど、自分自身がヒリヒリしていないし、ピリピリした試合もできていない。それは、バンタム級で今後、そういう試合があるのかなと思います」
早くもバンタム級王者たちへ宣戦布告
来年のバンタム級転向で新しい強敵を見つけていく 【赤坂直人/スポーツナビ】
WBC同級では王者のルイス・ネリ(メキシコ)が前王者の山中との再戦を指示されている。山中が勝てば日本人対決のプランも浮上する。転向後、誰をターゲットにするのかが気がかりだが、大橋秀行会長は「まだ(すでに予定されているタイトル戦によって王座の状況が)動くだろうから。空いたところで」と名前は挙げなかった。それでも井上は「チャンスがあれば、どこでも。その後の統一戦もあると思う」と全王者に向けて宣戦布告した。
もちろん、階級を上げれば、現在と同じようにはいかない。井上の父である真吾トレーナーは「体重が上がれば、こっちのパンチ力は上がるでしょうけど、相手の体も大きくなって、耐えられる力の選手になる」と一つの違いを挙げた。井上も「バンタム級はどの王者も強いし、王者に挑戦することになれば(これまでの対戦相手から)レベルも格段に上がる」と楽観視しているわけではない。それでも統一戦の話までするのは、素直に、強い相手とどんどん戦いたいという気持ちの表れにほかならない。
井上は「キャリアを積んで、米国で試合ができた。(階級を上げて最初のタイトル戦だったオマール・)ナルバエス戦から良いキャリアを積めたと思う」と14年末から始まった3年間のスーパーフライ級での戦いを振り返ったが、初戦のナルバエス戦のときには2階級制覇と不倒の王者への挑戦に気持ちを高ぶらせ、勝った後は「これぞ、ボクシング!」と子どものように興奮していた。
通算成績、15勝13KO無敗。あの高揚感を、オレにくれ――お前じゃない、お前でもないと世界ランカーをバタバタと倒して7度防衛を果たしたスーパーフライ級の“モンスター”は、来年、バンタム級に上げて3階級制覇を目標とする。
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