【ボクシング】小関桃、黒木を圧倒し「最高の結果」 2階級制覇達成も次の目指す場所は未定

船橋真二郎

WBC女子世界ミニフライ級選手権に勝利し、2階級制覇を成し遂げた小関桃 【写真は共同】

 サウスポー同士、注目の“女王対決”は、連続防衛17度を誇る35歳の小関桃(青木)が進境を示す1階級上の26歳、黒木優子(YuKOフィットネス)を圧倒――。

 プロボクシングのWBC女子世界ミニフライ級タイトルマッチは12月17日、福岡・九電記念体育館で行われ、挑戦者でWBC女子世界アトム級王者の小関が、これが6度目の防衛戦だった王者の黒木に3−0の判定(98対92、97対93、96対94)勝ち。2階級目となるベルトを奪取した。

王者・小関の9年4カ月ぶりの「挑戦」

「挑戦者らしく、1ラウンドからアグレッシブにいく」――。

 試合前に宣言していたとおり、開始から小関が積極的に攻めた。

 小関が挑戦者としてリングに上がるのは、実に9年4カ月ぶりのこと。最軽量のアトム級は選手層も薄く、相応の挑戦者探しに苦労してきた。ウェルター級の世界主要4団体を独占するセシリア・ブレークフス(ノルウェー)の21度に次ぐ、女子世界2位の防衛記録を持つ絶対王者は、「アトム級でやることはやった」と新たな“挑戦”を求め、あえて高いハードルを自らに課した。

「ミニフライ級になるようにばんばん食べて、でも練習すると体重がアトム級(46.2キロ以下)になっちゃうんです」とナチュラルウェートの小関にとっては、階級を上げること自体が挑戦。実際、前日計量ではミニフライ級の上限47.6キロに対し、黒木が47.5キロと100グラムアンダー、小関は47.0キロと600グラムも余裕があった。

 そして、何より小関がこだわったのが試合の開催地だった。ただ勝利するだけでなく、黒木の地元の「福岡で勝つことに意味がある」とアウェーでの勝負に付加価値を見いだした。

 さまざまな条件を含め、望んだ舞台が整うまでに要した時間は長かった。だが、1年1カ月のブランクを強いられながらも黒木戦のみを見据え、「1日も妥協せずに練習をやりきることだけ」に集中してきた。

黒木に打開策を与えない完ぺきな試合運び

 もともと「放っておいても、練習し過ぎるくらいやる」とアマチュア時代からコンビを組む有吉将之・青木ジム会長が評するように、練習量には以前から変わらず定評がある。

「誰とやってもいつもどおり。それがモモの強さ。いつも自信をもって試合に臨んでいるし、いつも結果を出してきた。今回も、これまでと同じように戦って、これまでと同じ結果が出ると信じている」

 試合前日の会見で有吉会長が示した自信には、それだけの裏付けがあった。

 左構えと右構え、階級、男女を問わず、敢行したスパーリングはトータル250ラウンド。対策は万全だった。

 黒木の持ち味である左の一発を徹底して封じた。有吉会長から「左に歩け!」と盛んに指示が飛ぶ。サウスポーの右回りをさえぎり、右のガードをがっちり固めながら、先手で左を打ち込んでいく。モーションの大きい黒木の左の打ち出しに合わせ、インサイドからコンパクトな左カウンター、上から打ち下ろすように角度をつけた左クロスから距離を詰めた。

 間断なく圧力をかけることで黒木に間合いを与えず、左のヒッティングポイントをずらし、威力を削ぐ。「中に入るまでにもっと時間がかかることも想定していた」という小関だったが、難なく接近し、ショートアッパー、ボディブローと連打で押し込んだ。

 4ラウンド終了時の公開採点では小関がリードしたが、1者は38対38と意外なドロー。だが、もとよりアウェーの戦いは承知の上。「攻勢点、見映え、気持ちで負けないことを意識して」、さらに攻め続けてリードを広げ、最後まで黒木に打開策を与えなかった。

 旺盛な手数、無尽蔵のスタミナ、そして戦略。小関の強さが際立った試合だったが、試合後の表情には会心の笑みは広がらなかった。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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