「ノアの聖地」ディファ有明の歴史に幕 記憶と記録に残る思い出を振り返る

高木裕美

クリスマス興行で三沢vs.小橋の黄金カード!

「怖い秋山」を見せた08年7月5日の秋山準vs.中嶋勝彦の初シングル戦 【t.SAKUMA】

 ディファ有明の思い出、というと、どうしてもノアの思い出につながってしまうのだが、個人的に印象深かった出来事ベスト5を挙げてみたい。

 まず、第5位は08年7月5日のノア興行。この日はダブルメインイベントの第1試合として、秋山準vs.中嶋勝彦の初シングル戦が組まれていたが、当時20歳であった中嶋の顔面蹴りに、「怖い秋山」が覚醒。リングを飛び出し、記者席のテーブル、イスを投げつける大乱戦となった。これまでも場外乱闘に巻き込まれた経験は何度かあるが、ステージ上に記者席が設置され、逃げるまでの準備と心構えが取りやすい後楽園ホールと違い、ディファ有明の場合は壁ギリギリに記者席が設置される。鬼の形相となった秋山選手が近づいてきても、パソコンを抱えて壁際に避難するのが精いっぱい。袋のねずみ状態のまま、先ほどまで自分が使っていたテーブルやイスが宙を舞うのを見つめるしかなく、今までの記者生活の中でもっとも、身の危険を感じた瞬間だった。

 第4位は04年12月24日のノア・クリスマスイブ興行。ノアは旗揚げ当初からファンサービスにかなり力を入れており、施設内で飼育したカブトムシのプレゼントや、道場を見学できるツアー、フリースペースを使ったフリーマーケット、選手バスに乗れる周遊ツアー、餅つき大会などといった、ディファ有明の施設や周辺地域を有効活用したイベントを随時開催していたほか、選手会興行やクリスマス興行も定期的に実施されており、いつもとは違う選手の一面を見られることで好評を博していた。まだ日本にハロウィン文化が浸透していなかった02年の10月31日には、同所でハロウィン興行も開催され、選手たちが全員コスプレ姿で登場。斎藤彰俊は、カボチャのかぶりもの姿でWinkの『淋しい熱帯魚』を踊り、後のクリスマス興行では、毎年完成度の高いお笑い芸を披露するのが恒例となった。また、クリスマス興行では、ファン参加の抽選で当日の対戦カードを決めるだが、04年の大会では、なんと第1試合で三沢光晴vs.小橋建太のノア黄金カードが実現。前年の3.1日本武道館ではプロレス史に残るベストバウトとなった両者の対決に、超満員となった1800人の観客も大興奮だった。さらに、全試合終了後には、「ディファ有明戦隊ノアレンジャー」という、戦隊モノのパロディーVTRが流され、その後、「ご本人登場」。“ちょっとモッコリ”全身タイツ姿の屈強な男たちが会場に勢ぞろいする中、特に、小橋扮する剛腕大魔王の衝撃は、98年の日本テレビ系の正月番組で、三沢、川田利明、小橋の3人がSMAPの『SHAKE』を歌い踊った時以来のインパクトであった。

新しい時代の始まりを感じたノア旗揚げ興行

06年6月29日にノア事務所で行われた記者会見で腎腫瘍摘出手術を発表した小橋 【スポーツナビ】

 第3位は、06年6月29日にノア事務所で行われた記者会見。その日は、夜にSEMの大会があり、その前に会見が開かれたのだが、その内容が、小橋が腎腫瘍摘出手術のため、次期シリーズを全試合欠場するというものであった。当時の小橋は直前に本田多聞とGHCタッグ王座を戴冠したばかりであり、7月16日には、日本武道館で行われる高山善廣復帰戦で、高山とノア初タッグを結成し、三沢&秋山組との対戦が発表されていた。
 この時の会見では、あくまで「右の腎臓に4〜5センチの腫瘍があり、画像からは悪性の疑いがある」という段階であったが、「あの小橋ががんになった」というショックは、はかりしれないものであった。当時、私は記者として現場にいたが、会見が開かれるまで、ほとんどのマスコミ陣は内容についてまったく知らされておらず、会見終了後、記者陣が慌てて会社に連絡を取りまくる狂乱ぶりも、記憶に刻み込まれている。
 その後、小橋は腎臓がんを克服し、07年12.2武道館で546日ぶりに復帰。この時のカードは、1年5カ月前に流れた小橋&高山組vs.三沢&秋山組であった。現在、頸髄完全損傷でリハビリ中の高山選手だが、04年8月に脳梗塞で倒れながらも2年後にリング復帰した回復力や、小橋の腎臓摘出からの奇跡の復活などを思うと、きっと高山選手も再び自分の足で歩くことができるのではと信じている。

 第2位は、00年8月5日のノア旗揚げ戦。旗揚げ戦は5日&6日の2連戦で行われたが、初日のチケットは発売後わずか20分で完売。100枚の当日券も前日の19時半の時点で整理券が配布されて売り切れとなり、入場券を購入できなかったファンのために、会場外の駐車場に巨大モニターが設置され、無料でライブビューイングが行われた。
 私が旗揚げ前日の夜18時過ぎに事務所に取材に行ったところ、すでに当日券の列にかなりの人数が並んでおり、スタッフが差し入れをしたり、三沢社長がファンに声を掛けている様子を目撃している。当日は18時試合開始であったが、真夏の昼間から何百人もがライブビューイングの場所取りに詰め掛けており、団体に対する期待度の高さが実証された。当日の試合でインパクトを残したのは、侍戦隊シンケンジャーの烈火大斬刀、もしくはサンシャイン池崎のサンシャインブレイドばりの大刀を手に入場した池田大輔と、金髪&白コスチュームのノーフィアー(高山&大森隆男&浅子覚)、そして、メインイベント(三沢&田上明組vs.小橋&秋山組)一本目で、三沢をわずか2分、フロントネックロックで破った秋山だった。いろいろな意味で、新しい時代の始まりを肌で感じた大会であった。

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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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