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アジジのスピード、ダエイのヘッド
集中連載「ジョホールバルの真実」(11)
後半開始早々、イランが牙をむき、日本は同点ゴールを決められる(写真は前半3分のもの)
後半開始早々、イランが牙をむき、日本は同点ゴールを決められる(写真は前半3分のもの)【写真は共同】

 後半開始早々、イランが牙をむく。

 キックオフからわずか30秒、ドリブルを仕掛けてきたメフディ・マハダビキアに対し、井原正巳が対応を誤り、ペナルティーエリアへの侵入を許してしまう。

 相馬直樹と秋田豊がそれ以上の突破を阻んだが、マハダビキアがバックパスをすると、それにアリ・ダエイがダイレクトで左足を合わせた。

 予想以上に速いタイミングで打たれたシュートを、川口能活はキャッチできなかった。ボールは名良橋晃の前にこぼれた。

 こぼれ球に名良橋が反応しようとした瞬間、疾風のごとく飛び込んできたホダダド・アジジに同点ゴールを決められてしまう。

「シュートを打つダエイに目が行っていて、アジジの姿を見失っていた。完全にボールウォッチャーでした。やべえ、と思ったときにはボールがネットを揺らしていました」

 ボールを前方に向けて蹴った川口は柔らかい表情で、「落ち着け、落ち着け」というジェスチャーを繰り返し、キャプテンの井原は手をたたいて周りを鼓舞する。

 警戒していたはずの後半の立ち上がり、それも1分にも満たないうちに同点にされ、ピッチの内と外ではさまざまな想いが交錯していた。

北澤豪(13)は川口のファンブルが気になったという
北澤豪(13)は川口のファンブルが気になったという【写真:岡沢克郎/アフロ】

「早い時間帯だったから、バタついた感じはなかったですね」

 そう振り返ったのは山口素弘である。名良橋もまた、ネガティブな感情に支配されたわけではなかった。

「これで終わったわけではないし、まだ後半が始まったばかりだから、切り替えるしかないな、という心境でした」

 一方、北澤豪は、川口のファンブルが気になったという。

「能活らしくないこぼし方だったから、能活、どうしたんだ? と思った。意外と緊張しているのかと。これはちょっと危ないから、一回引いたほうがいいんじゃないかと思った。みんなもそう思ったんじゃないかな。打たれたらやられるんじゃないかって」

 失点の様子をベンチから見つめていた城彰二は、チームの変化に嫌な予感を覚えた。

「1点取られた瞬間に雰囲気が変わったように感じたんです。だから、ドン、ドンって続けてやられる可能性があるな、これはヤバいんじゃないかって」


 同点にされた約5分後、岡田武史から指示を受けた城は呂比須ワグナーとともにウォーミングアップエリアに向かった。そして後半13分、城の、北澤の不安が現実のものとなる。

 それは、なんでもないクロスだった。

 マハダビキアが右サイドから放り込んだクロスが、秋田と名良橋の間にポジションを取ったダエイに向かって飛んでいく。ダエイが高い打点でボールをとらえたとき、名良橋が慌ててジャンプしたが、寄せ切れない。

「このタイミングで入れてくるのかと……。秋田さんもマークを外されていて、自分のジャンプも……完全に遅れてのジャンプでした」

 映像を見ながらゲームを振り返っていた名良橋の表情が陰る。

 川口が横っ飛びをしたが、ボールはバウンドして再び日本のゴールネットを揺らした。

 イランが逆転!

 同点にされたときには周りを鼓舞した井原が、呆然と立ち尽くしている。日本のベンチ前では小野剛がピッチに向かって「落ち着け」とのジェスチャーを繰り返し、岡田は何やら考え込んでいた。

〈1−2になって、フィールドを見ると選手たちの目がうつろだった。これはまずい、刺激が必要だ。下がった士気を上げるために、まだ点を取りにいくんだという姿勢を見せなくてはいけない〉(『週刊サッカーマガジン』1997年12月10日号)

 岡田は、呂比須の投入を決断した。


<第12回に続く>

集中連載「ジョホールバルの真実」

第1回 戦士たちの休息、参謀の長い一日

第2回 チームがひとつになったアルマトイの夜

第3回 クアラルンプールでの戦闘準備

第4回 ドーハ組、北澤豪がもたらしたもの

第5回 焦りが見え隠れしたイランの挑発行為

第6回 カズの不調と城彰二の複雑な想い

第7回 イランの奇策と岡田武史の判断

第8回 スカウティング通りのゴンゴール

第9回 20歳の司令塔、中田英寿

第10回 ドーハの教訓が生きたハーフタイム

第11回 アジジのスピード、ダエイのヘッド

第12回 最終ラインへ、山口素弘の決断(11月7日掲載)

第13回 誰もが驚いた2トップの同時交代(11月8日掲載)

第14回 絶体絶命のピンチを救ったインターセプト(11月9日掲載)

第15回 起死回生の同点ヘッド(11月10日掲載)

第16回 母を亡くした呂比須ワグナーの覚悟(11月11日掲載)

第17回 最後のカード、岡野雅行の投入(11月12日掲載)

第18回 キックオフから118分、歴史が動いた(11月13日掲載)

第19回 ジョホールバルの歓喜、それぞれの想い(11月14日掲載)

第20回 20年の時を超え、次世代へ(11月15日掲載)

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飯尾篤史
飯尾篤史
東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書として『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)、城福浩『Jリーグサッカー監督 プロフェッショナルの思考法』(カンゼン)などがある。

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