新たな歴史が生まれるルヴァン杯 C大阪と川崎、“あと一歩”からの脱却へ

戸塚啓

仙台戦での逆転勝利で自信を深めた川崎

「勝負強くなったと言われるのは、タイトルを獲ってからだと思っている」と話した小林 【(C)J.LEAGUE】

 準決勝でベガルタ仙台と対峙(たいじ)した川崎も、驚異の反発力を見せた。

 アウェーの第1戦を2−3で落としたものの、ホームの第2戦は2−0とリードする。ところが、トータルスコアで4−3とリードした直後に、退場者を出してしまった。

 ここで選手たちを奮い立たせたのが、浦和レッズとのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝で味わった痛みである。ホームの第1戦で3−1の快勝を飾りながら、第2戦では1−4で敗れてしまう。前半のうちに退場者を出し、10対11の数的不利に陥ったことが、予想外の敗退を引き起こした。

 しかし、ルヴァン杯の準決勝第2戦は違った。退場者を出したあとに1点差に詰め寄られても、チームのメンタリティーはぐらつかない。「ACLの悔しさは無駄じゃなかった。引いたらやられるというのはみんなが思っていた」と試合後に中村憲剛が語ったように、3得点を奪う快勝で仙台を突き放したのだった。

 ACLを教訓とした戦いは、ポジティブな印象を与えるものだった。それでも、キャプテンの小林悠は落ち着いた口調で話した。

「勝負強くなったと言われるのは、タイトルを獲ってからだと思っている」

カップを掲げることのできるチームはどちらか

カップを掲げることができたチームはその瞬間から、それまでと違う次元へ到達する 【(C)J.LEAGUE】

 10月14日に行われたリーグ戦第29節でも、川崎は仙台を相手に10人での戦いを強いられた。前半42分に家長昭博が退場処分を受け、直後の前半アディショナルタイムに失点を喫してしまう。さらに続く後半15分には2点目を献上したが、川崎の選手たちは闘志を燃やした。後半37分にエウシーニョが追撃の一発を蹴り込むと、39分、42分と立て続けに小林がゴール。10人の川崎は、わずか5分間でゲームを引っ繰り返し、仙台から勝ち点3を奪い取ったのだ。

 チーム最年長の中村は言葉に力を込めた。

「前半は相手の方が勝ちたい気持ちが強かった。それでも、最終的にはタイトルへの思いで僕らが相手を上回った。こういう試合をものにした体験が、チームを強くすると思う」

 プロ15年目を過ごす37歳は、“あと一歩の歴史”に何度も立ち会ってきた。それだけに、仙台相手の逆転勝利に価値を見いだしたのだろう。

 勝者のメンタリティーとはタイトルをつかみ取ることでチームに根ざし、新たなタイトルの獲得によって、チームを貫く芯となっていくものだ。チームの内側で膨らみつつある強い意思を、揺るぎないものにするのはC大阪か、川崎か。カップを掲げることができたチームはその瞬間から、それまでと違う次元へ到達する。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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